第41章 - 5

だが、あいつはてんで気に留める様子もなく、その糞ガキをひょいっと抱き上げ、背中に背負った。
「さ、これで気が済んだだろ?さっさとしねえと夜が明けちまうぜ」
あっしは急かすようにそう言ったが、あいつは、しっ、と口に指を当て、耳をピクリと動かした。
「ちょっと待ってくれ……今、話し声が聞こえた。あっちの方からだな」
あいつが指差した先にあったのは、「家電製品」と書かれた輸送用の小型コンテナだった。
勿論、そりゃただのカモフラージュで、実際はポケモン密輸の為に使われてんのは言うまでもねえ。
「ああ、そういや団員共が、ナントカってとこから珍しいポケモンが届く、とか言ってたなあ」
まだ到着したばかりなのか、その側面には船便のステッカーがベタベタと貼ってある。
「ふうん、シンオウ地方からか……随分と遠くまで商売の手を広げているようだね」
ステッカーを読みながら、そいつは皮肉めいた口調で呟いた。
「どこだそりゃ?てめえの知ってるとこか?」
恥ずかしながら、あっしは、そん時までシンオウという土地がある事すら知らなかった。
まさか、後々になって自分自身が行く羽目になるたあ、夢にだって思わねえ。
「いや、俺も行った事はないけど……軍隊にいた頃、仲間からそんな話を聞いた事があってね」
「ぐ、軍隊だぁ?!」

さすがのあっしも、これにゃあブッたまげた。と同時に、そいつに対する幾つかの疑問が晴れる気がした。
腹立たしい事だが、人間共のドンパチにポケモンが文字通り「生物兵器」として使われんのは良くある話だ。
人間共が争う限り、いくらでも需要はあったんで、当然、ロケット団もそんな戦争ビジネスに関わっていた。
軍隊で使役されるポケモンの状況は恐ろしく過酷で、たとえ訓練中でも死傷者が後を断たねえというからな。
……成程、そんな境遇を生き抜いてきた奴なら、その行動や目配りに抜かりがねえのも合点がいく。

「するってえと、てめえは……ひょっとして、脱走兵って奴か?」
「うーん、そんなところかな……まあ、その話は後だ。取り敢えず、これを開けないと」
あいつはしまった、とでも言いたげに顔をしかめたが、すぐに気を取り直してコンテナの正面に向かった。


でけえ南京錠を外し、コンテナの重い扉を開けると、真っ暗闇の中に四つの目が光っていた。
よくよく目を凝らして見ると――中にいたのは、今までに見た事もねえポケモンのガキ共だった。
「何だお前ら?!もしかして……あいつらの手先か?!」
二匹いたうちの一匹が立ち上がり、あっしらに向かってそう叫んだ。
そいつは上半身が水色、下半身が黒い毛で覆われた、耳の丸い山猫の子どもみてえな奴だった。
その背後で、長え尻尾をグルグル巻きにした青い子猫が、蹲ってブルブル震えている。
「く、来るなら来い!彼女にはツメ一本触らせないからな!」
山猫のガキは体毛をバチバチと光らせ、いっちょ前にもこちらを威嚇してきやがった。
だが、ガキの足元はガクガク震え、それが単なる虚勢に過ぎねえのは明らかだ。
あっしは思わず吹き出しそうになったが、あいつの横顔を見て、慌てて嘴を押さえた。
「可哀想に……こんな光も入らない、息苦しい所に何日も……」
あいつはコンテナの中を厳しい表情で眺めた後、真顔でガキ共に話し掛けた。
「安心していい。俺達は敵じゃない。君達をここから助け出したいんだ」
「そ……そんなの信じられない!騙されるもんか!」
山猫は震えながらも体勢を崩さず、あっしらを光る眼で睨みつけた。
「ホント?ここから出してくれるの?アタシ達シンオウに帰れる?」
だが、子猫の方はあいつの言葉に興味を持ったようで、山猫の足の間から、恐る恐るこちらを窺った。
「ダメだニャルマー、そんな簡単に信用しちゃ……」
「でも……あのおじさん、悪いポケモンには見えないよ?それにアタシ、早く外に出たいよ」
「心配ない。こやつは救いようのないお調子者だが、少なくとも嘘だけは吐かん」
あいつの背中から、自分達よりずっと小せえガキがそう言うのを聞いて、山猫はようやく警戒を解いた。
「お願いだから、俺の言う事を信じてくれないかな。このままじゃ、君達は別々に売り飛ばされ、離れ離れになってしまうかもしれない……いや、そうなる可能性の方が高いんだよ」
「そんなの嫌!アタシ、コリンクと一緒じゃなきゃ絶対嫌だもん!」
「……僕とニャルマーは、ずっとふたりで生きてきたんだ……離れるなんて……」
子猫は山猫に縋り付き、山猫の方は急に情けねえ顔付きになった。


山猫は子猫とあいつを交互に見ながら、しばらく黙りこくっていた。
だが、やがて何かを決意したように、あいつにまっすぐ顔を向けた。
「分かった……信じるよ。たとえ騙されても、ここで何もしないよりはずっとマシだ」
「ありがとう。君は強い子だな。さあ、早くお嬢さんを連れてそこから出るんだ」
ガキ共は頷き合い、寄り添うように連れだってコンテナから出てきた。
「おいおいペカチュウよぉ、まさかこいつらも……」
「当然だ、さっきも言ったじゃないか。一緒に連れていくよ」
あっしは呆れ返り、大きく溜め息を吐いた。
ああ、やれやれだ。生意気で小難しい糞ガキに加え、とんだオマケまで付いちまった。
「本当にこんなんで大丈夫なのか?」
「大丈夫だ、問題ない」
そう言って奴はニヤリと笑いながら片目を瞑り、ビッと親指を立てた。
全く……変なフラグじゃねえだろうなぁ――


――
「な、なあ、ちょっと待つポ……ごほん、すまない、取り乱した。その助け出したピチューの物言いは、まるっきり僕達のボスそのものじゃあないか。まさかボスはその時のピチューだったっていうのか?」
身を乗り出すようにして問うエンペルトに、ドンカラスは帽子のつばを下げフッと息をつく。
「……本当にそうだったら、どんなにいいか。あっしも幾らか救われた気になれたかもしれねえ。すまねえ、今話したあのチビ――ピチューの言動は、あっしの願望が混じった脚色だ。ボスがあの時のピチューであってくれたなら、こんな風に言っていたんじゃあねえか、ってな。」
「ええ?」
「あんな高圧的な喋り方をするピカチュウ族なんて、ボス以外にゃ見たことも聞いたこともねえ。あのピチューがそんな強烈な喋り方をしちまってたら、この洋館に初めてボスが攻めてきた時点で、あっしもすぐにボスがあの時のピチューじゃあねえかって気付けまさぁ。だが、こうしておめえに過去を話して、顛末をあっし自身も明確に思い出していく内、やっぱり、ありえねえって思い知らされる……」
沸き上がるものを喉の奥底へと飲み込むように、ドンカラスは嘴に勢いよくグラスを傾けた。
再びグラスを机に置きなおした拍子に、中の溶けかけた氷塊から小さな氷の粒が剥がれ、底へと滑り落ちていく。
「実際はその子、どんな感じだったんだ?」
「態度自体はさっき話した通りと然程変わらねえ。愛想の欠片もねえジト目のガキよ。ただ違うのは、ひたすら無口だったことだ。マフラー野郎の背中で、あのチビは蛹みてえに大事にマフラーにくるまれて引っ付いたまま、口元はいつもムスッと不機嫌に結んでた印象しかねえ。自ら何か言うことなんてまず無かったし、こっちが呼びかけてもぷいと顔を背けるか、たまに頷くかくらいだった」
「どちらにせよ、ピチューにしてはちょっと変わった子には違いなかったんだな」
「まあ、そうだな。だが、そんなヤツでも一緒にいる内に何ともいえねえ愛着が沸いていやした。何も言わねえでも、何となく身振りで言いてえことは少し分かるくらいにはな。……他に今の内に聞いておきてえことはありやすかい?」


「ああ。コンテナから助けた二匹の片方のニャルマーって……もしかしてこの洋館の近くでも時々見かけた、ムクホーク達と連るんでる女性だったりするのか?」
エンペルトの言葉に、ドンカラスはぴくりと眉を動かす。
「いつ奴を見かけやがった?まさか洋館に入れたりしてねえだろうな?」
「あ、ああ、言いつけられていた通り、いつも中に通すことはせずに、やんわりと帰ってもらってはいたが……」
何気なく聞いたつもりが思わぬ剣幕で返され、エンペルトは少し困惑しながら答えた。
「それでいいんでさあ。奴の呼び込む厄介は冗談にならねえ。もし何か吹き込まれそうになっても、取り合わずにすぐに追い払いなせえ。大きな群れの有力者に様々な手段で擦り寄っては内部に徐々に入り込み、骨と皮になるまで食い潰すのを生業として生きてきた強かな奴だ。それこそ、ガキの頃からな」
「……まさか、そんなポケモンだなんて、少し話しただけじゃ思いもよらなかったけれど」
「それだけ奴の猫被りの演技と催眠術が巧みだってことでぇ。おめえさんの読み通り、あっしの言った青い子猫――こりゃ言い直すべきだな。子猫の皮を被った化け猫は、おめえさんが時々見かけた奴と同一さ。奴とはこれからジョウトを旅する途中で運悪くはぐれちまうんだが、まさか生き残っていて、それもビッパが友達として連れてきて、シンオウのあっしの前に再び現れるなんざ、本当に腰を抜かしそうにぶったまげたよ」

――
「もう勝手にしやがれ。これで目的は果たしたんだろ。嫌な奴に見つかる前にさっさと行くぞ」
半ばやけくそになって、あっしは言った。とりあえずまだ少しでも逃げおおせる可能性がある内に、早く脱出してしまいたい。
このフロアの見張りをしている、あのゲス野郎に見つかってしまえばお終いだ。

「“嫌な奴”とは、何のことかね?そして、どこに行こうというんだヤミカラス」
聞き覚えのある、二度と聞きたくもなかった虫唾の走る嫌味ったらしい声が、部屋の一角に響いた。
その方に振り返る間もなく、焼け付くような熱があっしの横擦れ擦れを過ぎ去り、マフラー野郎達の方に向かって赤々とした火炎の帯が襲い掛かる。
「危ない!」
咄嗟にあいつはニャルマーとコリンクを炎が及ぶ外へ突き飛ばし、自身も素早く逃れた。


「おおっと、つい手が滑ってしまったよ。危ないところだったなぁ、ガキ共。さて、ヤミカラス。商品をこんなに沢山檻から出して、一体どういうつもりだ?」
見つかっちまった――!嘴を噛み締め、あっしはゆっくりと振り返った。
視線の先では、群青色の毛並みをした二本角の犬がにたにたと嘲笑を浮かべていた。
群青のヘルガー。こいつには後々まで苦しめられることになる。幹部を親に持つエリートのぼんぼん団員に飼われてた陰湿で執拗で残忍なゲス野郎さ。
色違いのポケモンなんてのはとても珍しい存在だが、糞ぼんぼん野郎が、親のコネでどこぞから自分のために仕入れさせて以来、そりゃもう大事に大事に育てられたらしい。
その結果か、飼い主共々その地位を鼻に掛けて好き勝手やり放題だった。気にいらねえ奴がいりゃすぐに殴る、噛み付く。下っ端の手柄は平気で横取り、失敗は擦り付ける。横領なんざ息するようにやってたぜ。
その癖、自分の飼い主――ぼんぼん野郎は幹部の親、ゲス犬はぼんぼん野郎――には、プライドなんて無いように尻尾を振りやがる。
悪の美学の欠片もねえ、ヘドロより淀んだ奴だ。
「こ、こりゃ、旦那……。い、いや、ちょっと在庫調査をするようにと仰せ付かっておりやしてね、へへ。旦那の手を煩わせるまでも無い、すぐにあっしの方で片付けておきやすんで、気にせず見回りに戻って下せえ」

媚び諂う様に低姿勢に、あっしは言った。
こんなゲスにまた諂うなんて、自分で自分に反吐が出そうだったが、少しでも言いくるめられる可能性があるなら賭けておきたかった。
ぼんぼん野郎の方は完全に親の七光りってヤツだが、ゲス犬の方は相応の実力を持っている。
あっしは味方の戦力を一応、頭の中で再確認してみた。
ガキ共は当然論外、軍隊にいたなんて漏らしてはいたがマフラー野郎も所詮はネズミだ。
きっと偵察だとか、軽めの物資の輸送だとか、その程度の役割だったに決まっている。
そして、あっしはしがない元倉庫番――無理にも程がある。


祈るように卑屈な笑みを浮かべ、あっしは奴の出方を待つ。奴は、くつくつと堪えきれぬように嘲った。
「やはり鳥頭に思いつく言い訳など、その程度か。お前が商品共と逃げる相談をしていたのは影で聞いていた。そこからどんな弁明をしてくれるのか楽しみにしていたんだがね。もういい、遊びは終わりだ。こい、お前達」
ヘルガーが声をかけると、物陰から少し前まで同僚だった三匹のポケモンが姿を現した。
一匹目は、丸い体系をした二足歩行の黄色いブタかカバみてえな姿をしたポケモン、スリープ。
二匹目は、全身筋肉質な人型のポケモン、ワンリキー。
三匹目は、腹側以外の全身を硬そうな甲殻に覆われたネズミに似たポケモン、サンドだ。

「クソッタレ……!」
――もう、お終いだ。あっしはもうその時点で全て諦めていた。
「商品を外まで逃がしたなんて失態を、主人達に報告するわけにはいかない。手早く片付けるぞ。その前に、スリープ!」
ヘルガーの号令と共に、スリープが両手を突き出して念じる。
「うわ、わ……?」
悲鳴に振り向くと、コリンクが何か見えない力に持ち上げられ、あっと言う間に奴ら側に引き寄せられていった。
「こいつは既に売約済みなんでね。トラックの発送も間近だ。丁重に主人達のところへ連れて行け、サンド」
こくり、とサンドは頷き、爪でがしりとコリンクを押さえつけて背負う。
「や、やめろー!」
コリンクはもがきながら必死の放電をするが、サンドはものともせずあっと言う間に走っていった。


「コリンク!」
「待った、一匹で飛び出すな!」
脇目も振らずに後を追おうとするニャルマーを、マフラー野郎が止める。
「邪魔するんじゃないよ!アイツに死なれたら、今まで守ってきたアタシの苦労は――」
「あの子から見えなくなったら、急に口が荒くなったな、お嬢さん。だが、落ち着くんだ。必ず後で助けるチャンスは来る。今は協力してこの状況をどうにか全員無事に切り抜けるのが先さ」
あんな状況だってのに、目が点になりそうなほどにあっしは呆気にとられた。
取り乱したニャルマーから発せられた声は、コンテナの中でコリンクと共に震えていた姿とはまるで想像できねえ純粋な子どもとは程遠い、擦れっ枯らした声だった。
「さて……後はどうとでも替えのきく売れ残りと、手違いでこっちに紛れていたらしき欠陥品、それと、裏切り者だけだ。処分してしまっても、問題ないだろう。やってしまえ」
ヘルガーは亀裂のような邪悪な笑みを浮かべ、スリープとワンリキーに命じる。二匹は身構え、今にも向かってきそうだ。
「協力っつったって、何をどうするってんだよ!?」
こんな状況で、あっしらが協力して立ち向かったところで、奴らに勝てるはずが無い。
あっしは、マフラー野郎に半ば掴みかかるように言った。
「相手は三匹。こちらも三匹。一斉にかかれば、どうにかなるさ。ピチューは数に入れられないけど、俺と君は戦える。お嬢さん、コリンクを守ってきたのなら、あなたも少しはやれるよね?」
「フン、少しはね。だけど、あんまり過度な期待はしないでおくれよ。あのワンリキーみたいな奴は苦手だし」
「じゃあ、あっちのスリープって奴をしばらくでいい、気を逸らしていられるか?」
「そのくらいならやってやるさ。コリンクをまんまと奪ってくれたあのアホ面を思い切り引っ掻いてやりたいしね」
まさか、この流れで、あっしにヘルガーの野郎を押し付けて逃げやがるんじゃないのか――嫌な予感がひしひしとしていた。
「うん、気合十分だ。ヤミカラス、君はあっちのワンリキーを頼んだ。格闘技を使う奴は、頭上からの攻撃が苦手らしいから、君ならうまく攻められるだろう?残ったあの青いヘルガーは、俺がやる」


「んなッ!?」
あまりにも身の程を知らないマフラー野郎の言葉に、あっしは声を上げて動揺する。
「大丈夫だって。確かにあいつは全身筋肉まみれで一見強そうに見えるけれど、動きはそんなに速くない。君ならうまくやれるさ。自信を持つんだ、ヤミカラス」
「そっちじゃねえよ!いや、まあ、そっちも不安にゃ違いねえが――。おめえ、自分が巨大なドラゴンや猛獣ポケモンだとでも勘違いしてんのか?そんなものとは月より程遠いちっぽけなネズミだぞ、ネ・ズ・ミ!あんな倍以上も体が大きな、それも火を吹く猛犬、俺様達三匹がかりで挑んでも勝てるかわかんねえのに、無謀だ無謀!」
首元のマフラーを掴みあげてぶんぶんと揺さぶりながら、あっしは捲くし立てた。背中のチビが小うるさそうに目をこすりながら、おんぶ紐代わりに身を包むマフラーの中から顔を覗かせる。
どうしようもない危機だってのに、呑気に居眠りなんてしていやがったたようだ。
「なんだ、俺の心配をしてくれていたのか。それなら尚更心配ご無用。あのくらいどうってことないよ。火を吹くなんて珍しいことじゃないし、体格だって世界にはもっとずっと大きくて頑強な奴らがいる」
ちっちっちっ、と指を振り、マフラー野郎は不敵に笑った。背中のチビはジトりとヘルガー達を見回してから、慌てふためくあっしを見やって呆れた様に鼻で息をし、またマフラーに潜り込んで夢の続きを見始めた。

『この程度で騒ぐな、うるさいカラスめ』
心の中で、そんな風に小馬鹿にしてやがったに違いねえ。
こいつら、親子揃って途方もない大馬鹿か、針金のように図太い神経をしていやがる。
あっしは絶句して、わなわなと嘴を震わせた。


「あんなチビ助が泣きも喚きもしないでいるんだ、アンタもぎゃーすか喚いてないで腹を括るんだね、ヤミカラス」
毛を逆立て姿勢を低く構えながらニャルマーが横目を向けて言った。
「チッ、うるせえな、何も知らねえガキのくせに偉そうに――」
「……もう隠してもしょうがないから忠告しておくよ、チンピラガラス。そのムサいツラをずたずたに引っ掻かれたく無きゃ、アタシをガキ呼ばわりするのはやめときな――コリンクの前以外じゃね。こんなナリをしちゃいるが、アンタとアタシの歳は然程差はないはずさね」
……再びの絶句。もう嘴は開いたままで、震える余力も無かった。

「いつまでも固まったまま何をごちゃごちゃと……もう抵抗を諦めて、誰から先に始末されるかの相談かね?ならば悩む必要はない。全員仲良く一思いに黒焦げにしてやろう」
言って、ヘルガーは首をもたげ大きく息を吸い込み始めた。青い胸元が徐々に膨れながら、煌々と赤い輝きを帯びていく。
「いい具合に、こちらを舐めてかかってくれている。いいかい。あいつが炎を吹いた瞬間に、散開して各々の標的に一気に取り付くんだ。その後は、撃破までは望まない。俺がヘルガーの動きを止めるまで、何とか持ちこたえていてくれ」
声を潜め、真剣な面持ちでマフラー野郎は言った。
「了解だよ。あんたのその奇妙な自信に一つ賭けてみようじゃないか」
「だああ、もう、ちきしょう、やりゃいんだろ、やりゃ!どうせくたばるなら、一匹でも多く道連れにしてやらあ!」
もう抱えるための頭が足りなすぎて、三つ首鳥のドードリオにでもなっちまいたい気分だった。

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