第41章 - 4

「しかし、だ。ヤドン達への非道な行いが事実なのであれば、それはあまりに目に余るというもの。種族は違えどポケモン同士として、見過ごすことは出来ぬ」
「そ、それじゃあ!」
「いずれにせよ、ミュウツー達に直接繋がるような足がかりは現状無いに等しいのだ。我らの存在は既に奴らに知られてしまっている以上、不用意にコガネシティに近づくのも尚危険になったのだろう。城を攻めるならばまずは外堀からと云う。ジョウトにも信頼できる新たな仲間を置き、地盤を固めるのが得策と考える。まずは――あまり頼りにならないこと必至であろうが――ヤドン達の安否を調べ、可能であれば配下としよう」
「ありがとう、それでこそピカチュウだよ!」
アブソルはパッと表情を晴らし、歓喜の声を上げて飛び付いてきた。
「ぶわっ、お、大げさだッ!離れよ!」
分厚い毛並みに埋めこまれ、俺は抜け出ようともがく。
「そーよ、これくらい当然なんだから」
言ってミミロップは俺をひょいと持ち上げ、アブソルから引き離した。
「うー、こっちはさっさとフーディンとっ捕まえて人間の体を取り戻したいってのによ……!」
デルビルはチッ、と悪態をつき、そっぽを向いた。

「んで、旦那方はこれからヒワダタウンに向かうってんでいいんだな。バラのにぃちゃんと黒猫さんはどうすんでぇ?もしおれっちがジョウトを巡ってる途中で出会うことがありやがったら、ついでに行き先を伝えておこうかい?」
翼を広げながら、プテラは訊ねる。


「ふん、別にそんな必要は――」
「いえ、よろしく頼むわ、プテラ。戻れるようになったら、いつでも戻ってきてって二匹には伝えておいて」
俺の口を再び強引に塞ぎ、ミミロップが割り込んでくる。
「合点承知でぇ。んじゃ、お達者で旦那方。また無事に会えることを期待してまさぁ」
プテラは翼で一、二回空を叩いて思い切り上空に飛び立ち、翼を大きく広げると空を滑るようにして飛んでいった。

「……余計なことを」
眉間にシワを寄せ、俺はぼそりと言う。
「はいはい。早くヒワダタウンに行きましょ。確か、ここから南西ってプテラは言ってたっけ。じゃー、ゴーゴー」
意に介せぬといった様子で、ミミロップは歩き出した。

「ねえ、アブソルちゃん。ヤドンのしっぽ、そんなにおいしいならマージもちょっとだけたべてみたいかも~。たのんだら、かじらせてくれないかな~?」
背後でじゅるり、とムウマージがよだれをすすり鳴らす。
「や、やめたげてよぉ」
……会って早々、噛み付いたりしなければいいが。


「――おい、起きな」
まどろみをたゆたう意識に出し抜けに声が触れ、ロズレイドはハッとして目を開ける。
「なんだ、意外とあっさり起きたな。こっちはどうやって叩き起こしてやろうか、色々考えてたってのによ」
その眼前には、にっと笑うマニューラの顔があった。
「あ……すみません、ついうとうとしていたようで」
謝りながらロズレイドは慌てて起き上がる。どうやら座り込んだままいつの間にか寝てしまっていたようだ。
もしかしたらそのまま置いていかれてしまう可能性もあったというのに、なんと迂闊だったのだろうか。
ロズレイドは自責と、安堵の念が籠もった小さな息をそっと漏らす。
「しっかりしろよな。そろそろ出るぞ。この森にゃアブねー奴だって棲んでんだ。オレならまだしも、オメーみてえなのがいつまでもグースカのんきに寝てたら、あっと言う間にとっ捕まってサラダにされちまうぞ、ヒャハハ」
冗談めいてマニューラは陽気に笑ってみせる。
「はは、そうですね。くれぐれも気をつけますよ」
ロズレイドは何気なく笑い返しながら、そっとマニューラの様子を窺った。
一見すると、すっかりいつものマニューラへと戻り、眠りにつく前の不穏な態度などまるで嘘か、あるいは寝際に寝ぼけて見た幻だったのかと思ってしまいそうなほどだった。
しかし、その黒い左腕には依然として煤けた布切れがしっかりと大切そうに巻かれている。
誰かとの思い出の品なのだろうか。ただの布への執着にしては、ただならぬものを感じさせた。
いずれにせよ、他者がずけずけと立ち入っていいような事ではないとは、容易に想像できる。
いつか自分から話してくれる気になる時が来るまで、今はただ静かに見守ろう。
ロズレイドは問い詰めたい気持ちをぐっと堪え、胸の奥底に押し込めた。
「なにいつまでもボーっとしてんだ。置いてくぞ」
ぼんやり考え込むように佇むロズレイドにマニューラは言い残し、さっさと先を歩いていく。
「っと、待ってください」
我に返ってロズレイドはマニューラの後を追った。


「――待った」
しばらく歩いていると、マニューラは不意に赤い両耳をぴくりと反応させて立ち止まり、ロズレイドを手で制する。
「どうしたんですか?」
怪訝に尋ねる声を「シッ」と止めさせ、マニューラは爪を構えて視線を周囲に走らせる。
ただならぬ気配に、ロズレイドも両手の花から毒針を伸ばして辺りをきょろきょろと見回した。
程なくして、前方の深い茂みががさがさと揺れる。二匹が固唾を呑んで様子を見張る中、飛び出してきたのは――
つぶらな瞳の可愛らしい顔つきをした、胴長の茶色い鼬だった。余程大急ぎで駆けてきたのか、少し息を切らしている。
力抜けしたようにマニューラは鼻を鳴らしてから、まごつく胴長鼬に向けて爪を振りかざし「シャー!」と鋭い威嚇の声を上げた。
胴長鼬はぎょっとして飛び上がり、元来た茂みに飛びこんで逃げて行く。
「今のは?」
「オオタチだ。大方、ネズミの残り香でも嗅ぎ付けてきたのかもな。少し前まで黄色いネズミちゃんと一緒に居たしよ」
「ええ? だとしても、なんのために?」
「聞きたいのか?奴らがネズミを捕まえた後に、一体どんな“お持て成し”をするのか……」
言って、マニューラは黒く笑う。
「い、いえ、やっぱりやめておきます……」
何となく察し、ロズレイドはそれ以上の言及を避けた。
しかし、本当に“それ”が目的だったんだろうか。ロズレイドは先程のオオタチの様子を思い返す。
どこか焦った様子で息を切らしていて、何かを追っているというよりは逆に追われているような、何かから逃げてきたかのようだったけれど――今更気にしても、仕方ないか。
二匹はオオタチが飛び出してきた深い茂みへと向かい、背の高い草を手で掻き分けて踏み込んだ。
途中、草を押す手に何か粘々としたものが触れたのを感じ、ロズレイドは手元を見やる。
すると、透明でとても細い、それでいて振り解こうとしても一向に切れない、妙な糸状のものがくっ付いていた。
これは、虫の糸――?


それは、芋虫型のポケモン等が吐き出す糸のように思われた。
ハクタイの森に生息するケムッソという赤い芋虫ポケモンが、蛹へと成長する時や天敵に襲われた際、よく似た粘着質の糸を吐き出していた姿を、ロズレイドも昔見たことがあった。
粘り具合からして比較的新しいものと思われるが、辺りを見てもそれらしきポケモンの気配は無い。
じっと目を凝らして糸の先を追ってみれば、先程のオオタチが通り抜けて行ったと思われる低い位置で掻き分けられた草の隙間へと続いている。
どうやらこの糸はオオタチがどこからかくっ付けてきたもののようだ。
大方、芋虫ポケモンに何かちょっかいを出して、吹き付けられたりでもしたのだろうかとロズレイドは思い至った。
それならば、慌てて見えたオオタチの様子も、芋虫ポケモンの思わぬ反撃に驚いて逃げてきたから、とも考えられる。
何せ、マニューラに少し驚かされただけで、逃げ帰って行く程にオオタチは臆病なようだった。

――何か危険な奴に追われていたのかもしれないと思ったけれど……何だか、心配して損したな。
ロズレイドは、先を行くマニューラを見やる。
その背からは何やらまた少し張り詰めた雰囲気が感じられ、わざわざこんな些細な糸如きの事で呼び止めたら、怒られてしまいそうだ。
ロズレイドは黙って手から糸を振り払おうとし、しばらく苛々と悪戦苦闘した後、もう諦めてその内自然と切れるまで放っておくことにした。

それにしても、マニューラはどこに向かっているのか。
邪魔な背の高い草に覆われた地帯をようやく抜けて、ロズレイドは方位磁石と地図を取り出し大まかな足取りを調べてみることにした。
今マニューラが向かっているのは北東方向。このまま森を抜ければ、キキョウシティの東にある三十一番道路辺りに出るのではないだろうか。
もしもそこから更に北東に行くのであれば、その先にあるのはチョウジタウンという集落、その東にある四十四番道路、そのまた東にはシロガネ山から連なる山脈があり、中腹辺りにフスベシティという山里があるようだ。


理由までは無理でも行き先を聞く程度なら大丈夫だろうと、ロズレイドは思い立って地図から顔を上げ、口を開きかけた時、視界の右隅で何かが微かに動く姿がちらついた気がした。
ロズレイドは気になってそちらに首を向けてみる。
すると、その視線少し先にある木、その根元に開いた穴の中で茶色い影が、何かを守るように体を丸めて震えているのが見えた。
少し前にマニューラに追い払われたオオタチだ。
木の周りを毒々しい緑色をした子蜘蛛達に取り囲まれてしまい、もうどうにも身動きが取れない様子だ。
――あの糸は、芋虫なんかではなくあの蜘蛛達の……!?オオタチは奴らから逃げていたのか、大変だ――!
「マニューラさん、あれを!」
いてもたってもいられず、ロズレイドはマニューラを呼び止める。
「あぁ?」
マニューラは小うるさそうに振り返り、ロズレイドの指し示す方向を見やった。
「あー、ありゃさっきの。周りのはイトマル共か――相変わらず、気味がわりー奴らだ――」
ぼそりと呟いて、マニューラは不愉快そうに顔を顰めた。
「見つからねー内にオレ達もさっさとこの場を離れるぞ。きっと直に、名前を口に出したくもねー”ヤツ”が来ちまう」
陰でぶるりと身を震わせ、マニューラはそそくさと先を急ごうとする。
「助けないんですか?」
ロズレイドは唖然とした。てっきりマニューラならばすぐにでも助けに入ろうとすると思っていたからだ。
マニューラは、「はぁ?」と片眉を吊り上げる。
「なんでそんなことをする必要があんだよ?」
「だ、だって、あんな集団で襲われたら、きっとあのオオタチと――」
「おいおい、このオレが無償で誰かを助ける正義の味方や博愛主義者にでも見えんのか? だったら、目に効くいい薬草を教えてやるぜ」
「そんなこと言って、マニューラさんは前に僕のことも危険を冒してまで助けてくれたじゃないですか!」
マニューラは面倒くさそうにばりばりと頭を掻く。


「勘違いしてやがんな。テメーは一応群れの仲間と認めていたから助けた。だが、あのオオタチは仲間でも何でもねー。大体、あのオオタチだって、あんな無害そうな面してるが、同じようにコラッタやらネズミを襲って生きてるんだぜ?」
う、とロズレイドは言葉に詰まる。
「襲いもすれば、襲われもする。水と光さえあれば満足なテメーにゃわかんねーかもしれねーが、生きていくには相応の覚悟ってやつがいる」
言って、マニューラはオオタチの方を一瞥した。
「あいつはクソ蜘蛛共の縄張りにうっかり入ったどころか、逃げ切れずに巣穴まで突き止められるようなヘマまでした。だから、終わりだ。誰のせいでもねえ、全て自分が引き起こしたことだぜ」
「……でも、何もまだそんな覚悟もなさそうな、あんな小さな子どもまで――」
「子ども? 何言ってんだ、ありゃもういい大人じゃねーか」
「よく見てください……」
怪訝に思い、マニューラは改めてオオタチを見やった。
そして、オオタチの丸めた体の隙間から、長い耳をした丸っこい体の小さなポケモン――子どものオタチがひょこりと顔を覗かせたのを見て、目の色を変える。
「親と、子か……」
「……はい」
マニューラはかたかたと微かに体を震わせて言った。

「だから……どうしたってんだ……」
振り絞るように声を上げ、マニューラは左腕に巻きつけた布切れをぐしゃりと握り締める。
――分かったよ、助けりゃいいんだろ、クソッタレ――!

「マニューラさん?」
ロズレイドは様子のおかしいマニューラに心配そうに声をかける。
と、マニューラは唐突に己の両頬をばしんと叩き、体の震えを強引に押さえ込んだ。
「メンドーばかり呼び込みやがって――!気が変わった。あのイタチ共を助けてやる。あの子蜘蛛共が“ヤツ”まで呼び寄せる前に手早くな」


「初めは後悔と文句ばっかりだったあっしも、ジョウトを駆け巡り続けている内に、あいつとあいつらとならどこまでも逃げていける、逃げていきてえ……いつからだったか、そんな風に変わってやした。だが、だがよぉ――」
ふっ、とドンカラスは力なく笑む。空いたグラスの中でカラコロと揺れる氷を見つめる目はどこか遠く、愁いを帯びていた。
エンペルトは何も言わず、そっとグラスに酒を注ぐ。
「ん、何だ。いつもだったら、そろそろ飲み過ぎだとうるせえ頃だろうに」
「今日ぐらい、いいさ」
「……へっ、ありがとよ。――どこまで話したんだっけな。ああ、そうだ、あいつを檻から解放した後だ――」

――
「聞いてねえぜ、んなこと!」
ただでさえ危なっかしい計画だというのに、更に小さいガキなんて不安定すぎる要素まで加わるなんて、無茶にも程がある。
「当然だよ、言ってないんだから」
文句を言うあっしに、マフラー野郎は何の悪気も無さそうににこやかに返した。
はめられた。瞬時にそう思った。だが、あっしの羽には既に盗みとった鍵束が握られ、檻は開け放たれている。
後戻りなんて出来そうにない。
「……あー、分かったよ!そのガキ共が捕まってやがるフロアまで案内すりゃいいんだろ」
頭を抱えたい気持ちをどうにか堪えながら、あっしは言った。
「助かるよ。それと――」
言って、そいつは檻の中で固まっている同族達を見やった。目が合った一匹が、びくりとして視線を逸らす。
「僕らはいい……。また捕まって、ひどい目に遭わされるのは嫌だ、怖いよ……」
ぶるぶると震え、涙を滲ませながら別の一匹が言った。
「そうか……」
「端から諦めちまってる奴は放っとけ。足手纏いにしかならねえし、構っている余裕なんざねえ。行くぞ、マフラー野郎」
自ら発した言葉の後味の悪さを吹っ切るように、あっしは檻を離れさっさと歩きだした。
「すまない、俺達は先に逃げる。鍵は開けたままにしていくよ。君達はもう十分に大人だ。立ち向かうか、諦めるか。その覚悟は自分で決めるんだ」


あっしは誰もいないことを慎重に確認してから、一足先に通路に踏み出た。
まだあっしの裏切りはバレてはいないだろうが、持ち場を離れてうろついているところを見つかって怪しまれたら面倒だ。
物陰に潜み、疎らに行き交う団員やそのポケモン達を避けながら、あっしは目的のフロアに向かう。

背後を見ると、あいつも少し後ろの方を同じようについてきていた。
隙を窺い影から影へ俊敏に渡るその動きに一切の躊躇も、もたつきもなく、随分こなれた様子だ。
やはりあいつは、森でのんきに暮らしていたであろう他のネズミ達とは違う。
初対面からずっとあいつには底知れない何かを感じていたが、それがより強まった。

目的の部屋の前まで辿り着き、あっしは一旦立ち止まった。
「ここがうちのチビ助――ピチューが捕まっている場所かい?どれどれ……」
すぐにあいつも追い付き、あっしの横からそっと部屋を覗き込む。
内部には小さめの檻が何列もずらりと積み並んでいる。今いる位置から目につく檻の中身は、全て既に空っぽだった。
「ここから見る限り、どうやら完売御礼みてえだな。ここはガキのポケモン専用の部屋なんだが、大抵入ってきた傍からすぐに捌けていく。ガキの方が騙くらかして懐かせやすいし、見た目も可愛らしいから人気なんだとよ。
こちらとしても無理矢理攫うのが大人より容易いから、最高の商品だと聞いてる。残念だが、お前のガキも既に――」
話ながらあっしは横を見やる。その途端に、言い掛けた言葉が喉の奥に引っ込んじまった。
「子どもを、いつもこんなに……?」
薄汚れた不衛生な檻の列を睨みつけ、表情険しくあいつは呟いた。
「諦めるには早い。奥から奥、隅から隅まで探してからだ。チビ助以外にまだ捕まっていたら、その子も助けていく」
あいつは言うと、あっしが有無を言う間もなく中に踏み込んでいった。

どちらにせよ、その時のあいつの鬼気迫る様子に、あっしは何も言えやしなかったよ。


こうなっちゃ、もう諦めて腹を括るしかねえ。
半ばそいつに引き摺られるように、あっしらは片っ端から檻という檻を見て回った。
だが、どれもこれも中は空っぽで、薄汚れた床に藁クズや食べ残しのエサが転がってるだけだった。

――もし、このまんまガキが見つかんねえ、なんて事になったら……こいつはあっしを置いて……
いや、最悪、あっしをバラして自分だけで逃げやがるかもしれねえ――

そいつの苛立つような雰囲気に呑まれ、あっしはそんな疑念と不安に掛られ始めた。
だが幸いにも、それは杞憂のままで終わってくれた。
ようやく辿り着いた一番奥の檻に、そいつが言った通りの三角耳の黄色いチビがちょこんと座っていた。
「良かった……まだ、残っていてくれたようだ」
そいつが件のピチューとやらだったようだ。あいつは途端に緊張を解き、ホッとしたように呟いた。
その声が聞こえたのか、チビは振り向き、一瞬、驚いたような――嬉しそうな顔をした。
だが、

「……何だ、また貴様か」
すぐにプイッとソッポを向き、事もあろうにあいつに向かって毒づきやがった。
「ああ、君を助けに来た」
「ふん、お節介め。助けてくれ、などと頼んだ覚えはない」
「俺も頼まれた覚えはない。俺が好き好んで勝手に潜入してきたんだ」
「余計な事を……どうせ来るならば、捕まる前に来れば良かろう」
「うん、出来ればそうしたかったんだけどね……ああ、早いとこ開けてくれないか?」
いってえ何なんだこいつらは?傍で聞いてても、とても再会した親と子の会話とは思えねえ。
どうも釈然としねえもんはあったが、とにかくあっしは、即されるままに鍵を開けた。

「そやつは誰だ?」
檻からトコトコ出てきたそのガキは、警戒心丸出しのジト目であっしの方を睨んだ。
「彼はヤミカラス、協力者さ。俺達と一緒に、ここから逃げるんだ」
ガキは一頻りこっちを見た後、フン、と鼻を鳴らして腕組みなんかしやがる。
「そうか。こやつに与するとは物好きな。まあ、せいぜいカラスの勝手にするがいい」
……あっしは額に青筋が浮き、嘴の端がヒクつくのを必死で堪えた。
姿に似合わず、全く可愛げのカケラもねえガキんちょだ。これじゃあ、売れ残るのも無理はねえ。

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