第37章 - 3

攻撃の手から悠々と逃げつつ、ヤミラミは問い掛ける。
「お嬢ちゃんは、このシンオウで大きくのさばっている一勢力の話を聞いたことがあるか?」
答えを待たず、ヤミラミは続ける。
「そのトップはピカチュウで、幹部の四天王には君と同じ種族がいるそうじゃないか」

まさしく自分のことだと、ミミロップは気付いた。荒れた息を整え、
「ええ、よく知ってる。だって、あんた達の目の前にいるんだもの。私こそピカチュウ四天王が一匹、ミミロップ!今更謝っても遅いけどね」
堂々とミミロップは名乗る。自分の正体を知れば、ヤミラミ達は怯んで退くかもしれないと考えたのだ。
癪だったが、じり貧にしかならない状態から抜け出すには仕方がなかった。

「そうかそうか。やっぱりか。こりゃあ良い」
だが、ヤミラミは怖じ気もせず、吹き出すように言った。
「えぇー、ちょ、ちょっと!もし私に何かあったら、組織の皆がただじゃおかないんだから!」
慌ててミミロップが言うを見て、ヤミラミ達はげらげらと笑う。
「おいおい、勘弁してくれ、今更それか。ここでお前を倒し、ルカリオとハガネールも始末すれば、誰も俺達がやったなんて証明できやしなくなるんだぞ」
うぐ、とミミロップは言葉を詰まらせる。苦笑いの表情に冷や汗が伝った。

「ハハッ、いやあ、まさか四天王の一匹ともあろうものがこの程度とはなあ。他の側近、ひいてはピカチュウ自体もたかが知れるというものだ」
「………なんですって?」
ぴく、とミミロップの眉が反応する。
「トップが本当に有能なら、部下もまた有能揃いなものだと俺は思うね。その逆もまた然り。部下が無能なら、トップの実力は推して知るべしだ。そうだ、ハガネールとルカリオを倒して鋼鉄島を乗っ取った後は、本土に渡ってお前達の組織を次のターゲットにしてやろう」
「……!」


「ドンカラスの腐れチンピラと、マニューラのあばずれ辺りがちと厄介かもしれないが……。なあに、ゆっくり時間をかけて信頼を得てから、内部からじわじわ侵略するまでさ」
「そんなこと………絶対にさせない!」
――自分の大切なもの達を、こんな奴に汚させてたまるか!
ミミロップの胸の奥底で押さえ込まれていた何かが沸き立ち、外に出ようと暴れだす。
「ぬ……今更どうやって止めるっていうんだ? 抗う手段も無く、体力も尽きかけてるっていうのに。もういい、さっさと終わらせるぞ!兄弟!」
「う、うん!」
少し焦るようにしてヤミラミ達は飛び掛かる。
ミミロップに秘められ、今まさに解放されようとしている何かを本能が感じ取り、恐れていた。
だが、爪がミミロップに届くより数段早く、ヤミラミ達の体は赤く燃えたぎる拳に次々と叩き落とされる。
「い!?あぢゃぢゃぢゃーっ!」
ヤミラミ達は地を転がって、必死に体に燃え移った火を消す。

「炎が戻ってきたぁーッ!これよ、この感覚!やっぱりさぁー、無理に自分を押さえ込むなんて健全じゃないわ。いくらそれでうまくいっても、大事なもの見失ってたら意味ないもんね。こんなゲス野郎を前にして、冷静沈着に心を静めてるなんて、単純な私には無理ってもんよ!」
それは怒りよりも熱い感情。ありきたりながら非常に強力な、仲間への想いや、熱情だった。


「めっためたのぎったぎたにしてやるから覚悟しなさい!」
ミミロップは両手の炎と、それに勝るとも劣らない闘志に爛々と燃える眼差しを向け、ヤミラミ達へじりじりと詰め寄っていく。
炎に照らされていては闇に溶け込めず、隠れることもできない。
既に勝利は揺るがないと高を括っていたヤミラミは、突然の形勢逆転に驚き竦み、元から悪い顔色を益々真っ青にして後ずさった。
「やばいよ、アニキぃ……」
弟分のヤミラミは情けない声を上げ、兄貴分に縋り付く。
「ええい、うるさい!」
乱暴に弟分を振り払い、兄貴分は怒鳴る。その態度に余裕は微塵も残っていない。
確実に勝っていたはずだった。まんまとルカリオとハガネールを嵌め、チャーレムを倒し、鋼鉄島を乗っ取るのは目前だった。
そこに現れた、小さな計算違い。初めは本当に些細なものだったはずのそれは、どんどんと大きくなっていき、今や計画のすべてを台無しにしようとしている。
――これ以上、こんなイレギュラーを相手にしてはいけない。
「計画は中止だ。俺は島を出る」
ヤミラミは恨めしげにそっと弟分に告げる。
「うう、そうだね。悔しいけど、もう逃げるしかないか」
「誰が一緒にと言った?お前は俺が逃げる時間を稼いでいろ!」
「え――」
兄貴分のヤミラミは無防備な弟分を、ミミロップの方へ思い切り突き飛ばした。
急に飛び出してきた弟分を、ミミロップは反射的に殴り付ける。
その拳を振りきった一瞬の隙に脇を擦り抜け、兄貴分のヤミラミは一目散に駆けていく。
――この島にはいられなくなるが、逃げ延びさえすれば、いつかまたどこか別の場所でチャンスは巡ってくるはずだ。
だが、またしてもヤミラミの計算は失敗する。逃げるヤミラミの横からそっと何かが伸び、その足に絡んだのだ。
それは見覚えのある白い手。うつ伏せに倒れたままながらも、チャーレムがしっかりとヤミラミの足を掴んでいた。
振り払おうと、ヤミラミは爪を振り上げる。しかし、時既に遅し。すぐ背後にまで迫る熱気――。
「こ、この俺が、こんな所で、こんな奴にぃぃ――!」
「……どこまでも最低な、見下げ果てた奴だったわ」


ルカリオに龍の息吹を容易く振り払われ、正面から撃ち合っては分が悪いと見ると、ハガネールはその巨体からは信じられないスピードで壁から壁、天井から床へと穴を掘り、縦横無尽に飛び出しては襲い掛かるという戦法を取り始める。
高速で動き回るという極めて単純な行動だが、それは鋼の巨躯を圧倒的な破壊力を持つ凶器へと変えた。

ルカリオはその軌道を目で見切り続け、紙一重で直撃は免れていたが、おろし金のように荒いハガネールの体表は、軽くかすっただけでもルカリオの体に容赦なく傷を負わせていく。
波導を探知しようにも、ハガネールの波導は周りの光の石が発する強い波導により邪魔をされ、どの穴から襲ってくるのか正確に読む事ができない。突進を避ける間に潜られては反撃もできず、為されるがままの、まさに満身創痍。
しかし、そんな危機的状況にありながら、ルカリオの瞳に諦めの色はまったく浮かんではいない。
その目は勝利を見据えているかのように落ち着き払いっていた。
ぎりぎりの戦いに身を置くことをどこか楽しんでいる風にさえも見えた。

ハガネールの攻撃の勢いが衰えたわけでもないというのに、ルカリオが受ける傷は徐々に確実に軽くなっていた。
深く息を吸い込み、全身に力を込める度、その毛並みの下の筋肉がびきびきと音を立て、強く厚くなっているのだ。
それは、肉体を瞬時に強化し、一時的だが絶大な力を得る技。ビルドアップの効果だった。

何度目かもわからないハガネールの突進が迫る。だが、もうルカリオはそれを避けようとはしなかった。


避けようとするどころか、ルカリオは腕を大きく広げ、真っ向から穴の前に立ちはだかる姿勢をみせていた。
暴走する機関車の前に身を投げ出すような、自殺にも等しい愚行。
もう勝負を諦め、自棄になっての行動だとハガネールは思った。だが、すぐにそれは間違いだと気付く。
ルカリオの全身から漲るのは、敗色など微塵も感じさせない一流の気迫。
恐れを知らぬ不屈の心を湛えた瞳に射竦められ、ハガネールは思わず突進の速度を緩めた。
が、既に止まれるはずもなく。遂に激突の瞬間が訪れる。ルカリオの身体にかかる計り知れないほどの衝撃。
全身の筋肉と骨がみしみしと軋み、食い縛った歯と歯の間から苦悶の唸り声が漏れる。
それでも決してルカリオは弾き飛ばされる事なく、ハガネールの突き出た顎を両手でしっかりと捉え、地が抉れるほどに足を踏張って耐えていた。

あまりの信じられない光景に、ハガネールは目を見開いて驚愕する。
直前にブレーキをかけたとはいえ、自分よりずっと小さい相手に、それも真正面から突進を受け止められてしまったのだ。
ずるずると押されながらもルカリオは上体を仰け反らせ、ハガネールの鼻先に思い切り頭突きを見舞った。
出し抜けな強烈な一撃に、ハガネールは一瞬意識が飛んだようになり、体の力がだらりと抜ける。
その虚を見逃さず、ルカリオはハガネールの体を、全身の力を込めて引っ張った。
残った突進の勢いを余さず利用され、ハガネールは一本釣りのように穴から引き摺りだされる。
そしてそのまま放られて、ハガネールは轟音と共に岩壁に叩きつけられた。
同時に、ルカリオもその場にがくりと倒れこむ。
積もったダメージ、無理な筋肉の強化と酷使の反動により、その体には限界が近づいていた。
だが、それでも尚、ルカリオは歯を食い縛り、立ち上がった。ハガネールもゆらりと顔を上げ、体勢を起こそうとしている。
互いに消耗は極限。次で勝負は決まる。二匹は確信していた。
ハガネールは大口を開け、渾身の破壊エネルギーを喉に充填する。
それに応えるようにルカリオも両の手首を向き合わせて、全身全霊の波導を集中させる。

双方、十分に力が高まり、いざ必殺技が放たれようとしていたその時――
「ちょ、ちょっと待ったー!」
慌てて駆け込んできた様子の声が止めた。


殺気立ったまま二匹は声の方へ目だけを向ける。視線の先には、息を切らした様子でミミロップが立っていた。
「ふう……間に合った。やめです、やめやめー!」
呼吸を整え、両手をぶんぶんと振ってアピールしながらミミロップは声を張り上げた。

「……邪魔だ。巻き込まれたくなくば、引っ込んでいろ」
ルカリオは欝陶しげにそう吐き捨て、ハガネールは歯牙にも掛けない様子で、続けようとする。
が、ミミロップの傍らに転がされたヤミラミ二匹――片方は随分とこっぴどくやられている――に気付き、再び中断した。

怒りの元凶が倒されているのを見て、憑きものが落ちたようにハガネールは落ち着きを取り戻す。
そして、状況が飲み込めないといった風に呟いた。
「これは、どうなっている……?」
「はめられたの!こいつら、あんたと師匠を潰し合わせて、弱ったところを襲おうとしてたんだってば!」
ミミロップは事の経緯を二匹に話す。

「――すまなかった、ルカリオ殿。昔から一度頭に血が上ると、歯止めが中々効かなくなるたちでな」
「いえ、私も不用意でした。ヤミラミ達の動向をもっと注意深く監視しておくべきだった」
疑いが晴れ、ルカリオとハガネールは互いに謝罪する。

「ふふん、もし私がいなかったら大変なことになっていたんですからね。感謝してくださいよ」
そんな二匹を見ながら得意げに言い放ち、えっへんとミミロップは胸を張る。
「今回ばかりは少し助けられたやもしれんな。……だが、私はお前に留守を命じていたはずだ」
「ええー……そ、そこはチャラになるところじゃあ?」
「それとこれとは話は別だ。仮にも師の言い付けを破るとは何事か」
反論をぴしゃりと切り捨てられ、ミミロップは「うう」と縮こまる。
「ふん、これ以上の説教はひとまず後にしてやろう。――して、このヤミラミ共はいかがする?」
顔を青くして苦笑いで固まるミミロップを余所に、ルカリオはハガネールへ問い掛けた。


ハガネールはヤミラミ達を睨め付け、ふん、と鼻を鳴らして、白い蒸気を立ち上らせた。
「拾ってやった恩を仇で返しおってからに」
「拾ってやったって?」
ミミロップはハガネールの言葉に疑問を浮かべる。
「うむ。こやつら、元々はホウエン地方からの流れ者だったのだ。島に漂着していた所を民が見付け、儂の下へと連れてきた」

当時、ハガネールの前に連れてこられたヤミラミ達は、自分達は命からがら追っ手から逃げ延びてきたのだと語ったという。
歩みもおぼつかず、息も絶え絶えと、いかにも弱りきった様子のヤミラミ達の語り口にまんまと丸め込まれ、不憫に思って保護をしてしまったのが間違いだった。
ヤミラミ達は初めのうちははおとなしくしていたものの、月日が経つにつれて徐々に増長していき、ハガネールの保護を盾に陰で必要以上に鉱石を貪ったり、島に住む他のポケモンを恐喝したりと、傍若無人な振る舞いを行うようになっていった。

「呆れて言葉も見つからないわ。何で好き放題やらせていたわけ?」
最低限の美学もないヤミラミの子悪党ぶりに、ミミロップは顔をしかめて言う。
ハガネールは口惜しげな表情を浮かべた。
「当然、きつく釘は刺しておった。だが、顛末はこのざまだ。いつか更生すると信じていた儂が愚かだったよ。もう十分だ。こやつらは島外へ永久追放とする」


「待った。その程度では納得がいかん」
ターバンのように包帯がぐるぐると巻かれた痛々しい頭をさすりながら、チャーレムが重い腰を上げる。
「善意を踏み躙られた上、殺されかけたのだぞ。もっと重い罰を与えるべきだとは思わんか」
そして、両手の指を鳴らしてヤミラミを睥睨しながらチャーレムは言った。
ヤミラミは冷や汗を吹き出させながら縮み上がっている。
「……今回の件は儂にも責任がある。そなたを止めることはできない。
気の済むようにするがいい。ルカリオ殿はどうなさりたい?」
ハガネールの問い掛けに、ルカリオはゆっくりと立ち上がる。
そして、無言でヤミラミに詰め寄ると、首根っ子の辺りを掴み上げた。
「ゆ、許してくれ!もう絶対にこんなことはしないと誓う!」
今にも失神しそうなほど震え上がりながら、ヤミラミは必死の形相で命を乞う。
「その言葉、誠か?」
表情一つ変えないルカリオの言葉に、ヤミラミは取れてしまいそうな程に首を縦に振るう。
「どうせその場しのぎの嘘に決まっている!まさかとは思うが、情けをかけてはいかんぞ、ルカリオ殿!」
「そうですよ、師匠!こんな奴、野放しにしちゃダメ!」
チャーレムとミミロップが囃し立てる。ハガネールは祈りを捧げるように、ただ目をぐっと閉じた。

何分にも長く感じられた一瞬の沈黙の後、ヤミラミの体はどさりと地で音を立てた。
「――!?」
まだ生きているのが信じられないと言った風に、ヤミラミは自分の体とルカリオを交互に見回した。
「ゆけ!次に悪事を行った時が最期だ。私は地の果てからでも聞き付けて駆け付け、お前を始末する!」
ヤミラミの体にかすりそうな程にすれすれの場所へ拳を突き立て、ルカリオは吼える。
悲鳴を上げ、ヤミラミは転げるようにして逃げていった。

「な!なに逃がしちゃってるんですか、師匠ー!?」
ミミロップは非難と驚きの入り交じった声を上げる。
「もはや奴らは完全な腑抜けだ。誇り高き拳を汚す価値は無い」


「まったく、そんなプライドなんて気にしてる場合じゃないでしょ」
悔いる様子の全く無いルカリオを、ミミロップは更に責める。
「次は無い。奴は私に誓った」
「信用できないと分かり切ってる相手です」
「信じる者がただの一人もいなければどうなる?何も掴む所がなければ、堕ちるところまで堕ちて、二度とはい上がれはしない。だから、奴らに最後のチャンスを与えることにした。私は奴らを信じる」
信じる――。ミミロップの心は強く打ち付けられる。
あれだけの目に遭わされながら、尚もそう言ってのけたルカリオの精神に。
それに比べ、自分はなんと心の小さかったことか。
ピカチュウの顔をミミロップは思い描いた。直接本人の口から聞いたわけじゃないのに、私が邪魔だから置いていったんだと思い込み、信頼を疑ってしまった。
「分かりましたよ、もう!チョコレートみたいに甘いんだから………」
ミミロップは諦めたようにうなだれ、言ってみせた。
――きっとピカチュウにも何か事情があったんだ。信じてみよう。もし戻ってきたら、笑顔――とはいかなくても、あまり怒ったりせずに、ちゃんと帰りを迎えよう。
「すまないな、チャーレム殿」
「……仕方があるまい。ここは某も堪えよう」
ふう、とチャーレムは息を吐いた。

「うむ……まとまったようだな。この度は、元とはいえ、島の者がお主らに多大な迷惑を改めて詫びよう」
ハガネールは深々と頭を下げる。
「これから、あんたはどうするの?」
「ヤミラミどもが民の心身や島に与えた被害は小さくはないが、ぬしとして責任をもって立ち直らせていくよ」
「ねえ、物は相談なんだけどさ。よかったら、私達の組織に入らない?そうすれば、ドンや皆から色々と助けてもらえると思うし」


ミミロップの突然の提案に、ハガネールは「ふうむ」と唸り、ひとしきり悩む。
「……そうさな。またいつヤミラミのような不届き者が現われんとも限らん。おぬしらの保護下に入った方が良いのやも知れぬ」
「それじゃあ――」
「うむ。統治者に伝えてくれ。これより鋼鉄島はおぬしらの組織へ加盟する」
「やったぁ!」
ハガネールの承諾の言葉に、ミミロップはぴょんと小さく跳ね上がって喜びを表現する。災い転じて福となす。転んでもただは起きないミミロップのしたたかさを、ルカリオはただただ呆れ返って見つめていた。
「では早速ブイゼル共を使いに出させてこよう」
「ええ。任せたわ、チャーレム。思わぬ土産ができちゃった」

――

「本当に私達と一緒には来てくれないんですか、師匠ー……」
しょんぼりとした様子でミミロップは出航間近のホエルオーの背から、ルカリオに声をかける。
ヤミラミの一件から時は経ち、本土のポケモン達の協力もあって、島に残された傷跡も完全に癒えていた。
「今生の別れでもあるまい。お前が波導を志すかぎり、いつか再び道が交わることもあろう」
別れを惜しむふうもなくルカリオは言葉を返す。
ミミロップの修業は指導を受ける段階を終えて独り立ちの時を向かえ、以後は、自らの手で道を模索し、鍛練していかなければならないとルカリオは告げた。
ミミロップは、組織に加わってくれればとても心強いとルカリオを誘ってみたが、自身も修業のためにこれからも旅を続けるのだと断られてしまった。
「忘れるな。波導に終わりは無し。生涯未熟なり。驕ることなく、己を磨き続けろ」
「はい!」
潤む目をこすって拭い、ミミロップは声を張った。
ホエルオーが出航の汽笛代わりの鳴き声を上げ、ゆっくりと岸を離れ始める。
「それじゃあ師匠、お達者で!」
「息災でな」
見送るルカリオの姿が点になって見えなくなるまで、ミミロップは両手を振り続けた。
鋼鉄島での修業は、ミミロップを身体的だけではなく、精神面でも大きく成長させた。
「よーし、頑張るぞー!でも、洋館に帰ってから少しの間くらいはサボってのんびりしてても、ばちは当たらないわよね」
……はずである。

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