第33章 - 2

「暗くて良く見えねえな『だーれだ?』ってか。」
一番前にあるカプセルを覗きこみながらゲンガーが唸った。
「その方が都合がいいですよ。今から機械ごとすべて壊さなければいけないんですからねぇ、ヒヒ」
「ケッ、いくらこいつらが偽物だって言われてもあまりいい気はしねぇな………ゴースト共!」
「「「アイアイサー!」」」
ゲンガーの掛け声と共に次々とビリリダマが設置されていく
「オヤビン、準備完了しました!」
「よし、爆―――」
バリンッ

不意に一つのカプセルが何かが飛び出し、何匹かのビリリダマをなぎ払った。
「ゲゲッ!なんだ今のは?」
「オヤビーン、今のでビリリダマが気絶しちゃいましたー」
「ゲゲゲゲッ!さ、さっさと叩き起せ!」

「ピュイッ――!」
カプセルから飛び出した何かが旋回し、再びビリリダマに照準を合わせた。
「邪魔するんじゃねーよ!」
ゲンガーが放った電撃をサラリとかわしたかと思うと、さらに旋回しゲンガー達から離れていった。
「ケッ、どうやら俺様に恐れをなして逃げ出したようだな。」
「違うっすよ!マズイっすよ!オヤビン!今の奴俺たちのことバラすつもりですよ!」


「もうわかっているはずだオリジナル。俺たちの間には覆しようのない差があることにな―――。何ならそちらの子ウサギも一緒にかかってくるがいい。」
「ちょっと、でしゃばるんじゃないわよ!私のオリジナルは私がけりをつける、邪魔しないで!」
どうやら、奴らはお互いをあまり信用していないらしい。
ミミロップもコピーに間に流れる不穏な空気に気づいた様だ。
「ふーん…最初見たときは本当にそっくりだと思ったけど、けっこう違うとこあるのね。」
「当ったり前じゃない、言ったでしょ?私たちは勝つために造られたの。あんた達と違って、わたし達の間にはチームプレーなんていう都合のいい言い訳は存在しないわ。」
「さて、おしゃべりはここまでだ。」
そう言うや否や、奴らは己のオリジナルに止めを刺そうと駆け出した。
「ど、どうする?」
指示を求めるミミロップの顔から不安がにじみ出ている。
「とにかく倒れるな。俺が奴を片付けるまではな。」
「う、うん…早くしてよねっ!」
お互いがお互いを奮い立たせ、俺たちは迫りくるコピーを迎え撃つ―――

射程圏内に入ると同時に、無言のまま奴の電撃が走る。もう遊ぶ気は無くなったらしい。
さっきはああ言ったものの、やはり俺に残された手は少ない。
必死に攻撃をかわしつつ腕輪に意識を集中する、カイリキーの時と同じ桃色の光が輝き始めた。
―――まだだ、この程度の光では足りない…
電撃が頬をかすめ、徐々に奴の電撃が俺の体を捉え始める。
―――まだ…もう少し…
「いつまでそうやって逃げ続けているつもりだ?」
少しイラついたように言葉をこぼし、奴はさらに攻撃の手を強めた。
―――今だ!


低く唸るような音と共に、十分に大きくなった桃色の光球を打ち出す。
が、期待とは裏腹に光球は奴まで届かず、途中で停止したかと思うと、一気に膨張し俺もろともあたり一面を飲み込んだ。
同時に、ズッシリと何かにのしかかられる様な、強く大地に引き込まれるような感覚に襲われた。足が上がらない。
光でほとんど目を開けられないが辛うじて奴の姿を確認できる。
―――奴にも同じことが起こっているようだ、悪態をつきこちらから目をそらしている。
…この機会を逃すわけにはいかない。
右腕に目一杯電流を集め、巨大な球体をはじき出す。
「―――ッ!」
反応が遅れ、避けきれないと気づいた奴の顔から始めて余裕が消え去る。が、すぐにその顔は電撃の嵐と巻き立つ土煙の中に飲み込まれ…見えなくなった。

光が薄れ、少しずつ体が軽くなるのを感じる。
準備に時間がかかった割には随分と短い時間だった。
まあ………うまくいったことに変わりはない。流石に今のを受けて無事でいられるはずは―――

「―――俺としたことが、オリジナルに不覚を取るとはな」
!!
土煙が徐々に消え、奴の―――電流の壁に覆われ、傷ひとつない姿があらわになった。
「フン、何を驚いている。お前にできて俺にできないことがあるとでも思っていたのか?今のは少々予想外ではあったがな…てっきりその腕輪は持ち主の力を引き出すだけだと思っていたが…まあいい、お前を倒してからゆっくり調べるとしよう。」


澄んだ二つの歌声が重なり合い、歌い手である二匹のムウマージを包み込む。
その陰鬱で物悲しい旋律が一つ音を外すたび、一節が終わるたび、ムウマージから紫色をした靄のようなものが吹き出し、少しずつ体が薄れていく。
傍から見れば遊んでいるようにしか見えないが、それは壮絶な戦いだった。
二匹が歌う歌には聞いた物の心に直接打撃を与え、戦意どころか生きる気力さえも奪い去ってしまう呪いが籠められている。
実体のある真っ当な生物でさえ聞き続ければ生命活動が弱まり瀕死の状態にまで陥る可能性がある強力な物だ。
はっきりとした実体を持たない、精神的な物だけで存在を辛うじて維持している者達――いわゆる幽体、ゴーストポケモン――にとっては格別の効果があった。

一音々々に乗った呪詛が研ぎ澄まされたナイフのように二匹の精神を抉り、存在を削り合う。
戦況は明らかに本物のムウマージが不利であった。コピーの方にはほぼ変化が無いが、本物の体は殆ど半透明になり、歌声も段々と弱弱しく掠れがちになってきている。

実力の差もあった。だが、本物のムウマージがコピーに押されている一番の原因は他にある。
コピーが他の者達への被害をお構い無しに高らかに歌い上げる中、本物のムウマージは自分の呪いが広がりすぎぬよう配慮し、コピーが発する攻撃を一身に集め、仲間を守りながら戦っていた。

「なに、あいつ等。のんきに歌なんて歌っちゃてさ。うざったいったらありゃしない」
コピーのミミロップは二匹の様子を見やると、ふん、と鼻で嘲った。


「―――思い出した。いでんしポケモン…ミュウツー」
レッドがこぼした自分の名前を聞き、ミュウツーの動きがピタリと止まった。
「私を知っているのか?」
「うん、僕はその…君を造りだしたロケット団とは長い付き合いでね、むかし君の文献を読んだことがある。」
レッドが慎重に言葉を選びながら続ける。
「確かに彼らのやったことが許せないのはわかるけど、もうロケット団は解散してしまったんだ。受けるべき罰を受けてね。だから…もうこんなことはやめて僕と一緒に来ないか?人間だってそんな悪い奴ばかりじゃないよ。」
「悪い奴らばかりじゃない…か…」
ミュウツーの口元がかすかに緩んだ。
だらりと腕を下ろし、口を開くと同時にレッドの心に直接語りかけた。

「生命とは何か目的を持ってこの世に産み落とされるという。
たとえどんなに小さなものであってもだ。必ずその者の支えとなり、生きる道しるべとなる。
だが造られた生命である私には…お前にならわかるとでもいうのか?私生まれてきた意味―――目的を。」

『私は何故ここにいるのか?』

「………………」
「ククッ、答えられるはずがあるまい。私にはそんなもの存在しないのだからな。―――それでも私を止めるというのなら、力で示してみろ。」
再び戦いの構えに入るミュウツー、それに応じてリザードンも体勢を低くし唸り声を上げる。


「戻れ、リザードン」
どこか悲しげな掛け声と共に、リザードンにボールを向ける。
一瞬、意味がわからないという素振りを見せたが、すぐにやれやれとでも言う様にボールに収まった。
「ほぅ、どういうつもりだ?」
「見ての通りだ、もう仲間の力は借りない。君は僕自身が止めてみせる。」
言うや否や、一直線にレッドが駆け出す。
「フッ、ハハハハ!面白い冗談だ。その貧弱な体でどうやって私を止めるというのだ?」
突き出したミュウツーの右腕から無数の光弾が放たれた。

「待って―――!」
突如、二人の間に白い塊が飛び出し、黒き鎌で光弾を弾き飛ばした。
「む、お前は―――そうか、お前のコピーだけは何故かうまくいかなかったのだったな…お前にも多少興味をそそられるが―――邪魔をするな、小僧!」
「いやだっ!」
前傾姿勢のまま、アブソルは動こうとしない。
「目的が無いからって、そんなの絶対間違ってるよっ!ピカチュウが言ってた、外の世界には素晴らしいものがいっぱいあるって。難しいことはボクにはよくわからないけど…でも、復讐なんかにせっかく貰った命を使っちゃったら勿体ないよっ!」
赤い瞳からは今にも涙がこぼれそうだが、その燃えるような眼差しはミュウツーから離れない。

「―――言ったはずだ、私を止めたければ力で示せとな。」
表情を変えず、ミュウツーが一人と一匹に狙いを定めた。


アブソルの叫ぶ声。
レッド、アブソル、そして今にも光弾を放とうとするミュウツーの姿が目に入った。
危ない―――だが、駆けつけようとする俺の行く手を電撃が遮る。
「ほぅ、まだ仲間の心配をする余裕が残っていたのか。」
忌まわしいコピーの顔には既に余裕が戻り、皮肉を込めた笑みが浮かんでいる。
「チィッ!」
くそっ、間に合わん―――

―――ピュイッ
甲高い泣き声が洞窟中に響きわたり、皆の注意が上に集まる。
土色の翼、それとは対照的な極彩色の尾羽とトサカ―――
だが高度を下げるにつれ、本来あるはずのないまだら模様がはっきりと目に映った。
「ほぅ、自らの意思で這い出てきたか。」
予想はできたことだ…が、その事実を受け入れられるかどうかは別の話だ。

「お前が…俺を…生み出した…のか?」
初めて言葉を話すかのように、いや、実際今生まれたのだから当然かもしれない。
まだ緑色の液体がしたたる身体から途切れ途切れに言葉を吐き出す。
「そうだ、私がお前を造りだしたのだ。―――記憶が混乱しているようだな。」
もう話さなくていいとでも言うようにピジョンの頭にポンと手を置くミュウツー。
おそらくテレパシーで頭の中を読み取っているのだろう。

「―――他にもネズミが潜り込んでいたか。」
頭から手を離したかと思うと、手探りで物を探すかのように腕を左右に動かし、何かを掴み引っ張りあげる。
と同時に岩の陰から一匹の黒い影が飛び出した。むしろ、引きずり出されたというべきか。
「ゲゲッ!な、何だ?」
「オヤビーン、そっち行っちゃ駄目ですよー」
どこかで聞いたような声だ。


「クソッ!おろせー!」
あれは、シンオウにいたゲンガー―――短い手足をじたばたさせいるが、無駄な足掻きのようだ。
「やめておけ、程度のビリリダマ程度の爆発では装置を破壊するに至らん。無論、やすやすと爆発させるつもりは毛頭ないがな。」

ミュウツーが空いている手を上げ、叫ぶ。
「目覚めよ!我が野望の元に!」
次々とガラスの砕ける音と雄たけびが鳴り響く。
―――おそらく十数匹…いや、それ以上か?

「やめろぉぉっ!」
黒い影が岩陰から飛び出し、その牙がミュウツーの腕に食い込んだ。
「これ以上その機械をお前みたいな出来損ないに使わせるのは我慢ならねぇ!」
―――デルビルだ、何かわめいているがよく聞こえない。口汚く罵っている事は確かだが。
「フン、自分のその姿を見てからものを言うんだな。」

一瞬、俺のクローンがデルビルに気をとられた。
隙を逃さず値に電撃を打ち込み、同時にアブソルたちの元へ駆け寄る。
「怪我は無いか?」
「うん…。」
確かに目立った傷はないようだが、何か様子がおかしい。

既に先ほどの雄たけびの主であるクローン達の姿が確認できるところまで来ている。
―――これ以上ここにとどまるのは危険だ。
「ここはいったん引くぞ。流石にあの数では多勢に無勢だ。」
「待って…なんかぼく…変…」

突然、腕輪が高い金属音と共に輝き始める。
それに呼応するかのようにアブソルの体も………
―――ッ!


これ以上とでも入りきらないとでも言うように一気に桃色の光があふれ出す。
―――さっき俺が出したものと同じ光だ。だがこれは…さっきのとは比べ物にならない
光は洞窟一面に広がり、ミュウツーを除くすべてを大地に跪かせた。
止めようと腕輪に念じてみるが一向に収まる気配を見せない。

何とか光を押さえ込もうと考えをめぐらせているうち、今度は桃色の光の間に今度は青い光が漏れ出た。
今まで使ったことない色だ。…青…水…イヤな予感しかしない。

ズドドドド…

すべてを飲み込まんと四方からこちらに向けて津波が押し寄せてくる。
飛び上がろうにも足が地面から離れず、生憎サーフボードの代わりになるものも見当たらない。
俺は衝撃に備えて身を固めた。


波に飲まれ息ができない、が同時に体が軽くなるのを感じる。
空気を求め、上を目指して地面を蹴り上げた。

―――既に先ほどまでの光は嘘のように消えている。
すぐ横にレッドが気を失ったアブソルを抱えながら浮かび上がってきた。
これが光の暴走が収まった理由か…覚えておこう。

「もうっ!何なのよこれ!」
ミミロップが流されるようにこちらに向かって泳いできた。
その上をムウマージがフラフラとついて来る。
「あのムウマージきらい~」

「出てこい、カメックス!君たちも掴まって。」
「ぉいおい、何があったっていうんだ?」
カメックスが驚くのも無理はない、こっちが聞きたいくらいだ。
「説明している時間は無さそうだね。上を見て。」

ミュウツー、クローン達が水面からすこし上に浮かんでいた。
こちらを見下ろすミュウツーの顔には怒り、それ以上に驚きの表情が表れている。
「今のは…いったい…?遺伝子から見て奴らにこれほどのことをなせるはずがない…ではあの人間か…?しかし…」
何かをブツブツと呟いている。どうやら目はこちらを向いているが俺たちのことは見えていないようだ。
後ろに立つクローンたちも俺たちの以外はピクリとも動かない。
「ざまぁ見やがれ!機械もぶっ壊れちまったし、これでお前の計画もおじゃんだな!」
デルビルも無事だったようだ。―――あれは人間でいう平泳ぎというやつか。

デルビルの声が聞こえたのか、ミュウツーの呟きが止まった。
「―――結論が出た、真相を確かめるのはリスクが高い。よって貴様たちにはここで消えてもらう。あの機械の構造は既に頭に入っている。多少計画が遅れることは認めざるを得ないが、場所を変え再び同胞を増やすとしよう。それでは…さらばだ。」


一斉にクローン達が、ミュウツー自身を先頭にこちらに向かって飛び出す。
こちらはカメックスから離れないようにするので精一杯だというのに―――

「みんな、もう一度頑張ってくれ!」
いつの間にかレッドはカメックスの上に立ち、他のポケモンたちも繰り出していた。リザードン、エーフィ、ピカチュウ、カビゴン(フシギバナは出すスペースが無いようだ)
さらにリュックから七つ目のボールを取り出す。
「出ておいで、ラプラス。彼らをつれてここから出るんだ。」
ラプラスは一度だけ頷き、こちらを向いた。
「さぁ、背中に掴まって、息を大きく吸い込んで…」
「待て、その人間を置いては行けん。それに部下のロゼリアの姿も見えない。」
「レッドさんなら大丈夫です。もう時間がありません、そちらの子もこのままじゃ危険ですよ。」
たしかに、アブソルの体調は見る見るうちに悪くなっている、しかし―――
「もしそのロゼリアさんが溺れているのであれば出口のほうに流されているはずです、急いで!」
しぶしぶラプラスの背中に捕まり息を大きく吸い込んだ。
「行きますよ、3…2…1…それっ!」

最後に振り返ったとき、レッドと目があった。
口を開き俺に何かを言った―――が、声が届く前に水が耳を塞ぎ―――静寂が訪れた

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