スポンサーリンク

第33章_1

―――もどりの洞窟奥地

薄暗い祭壇の頂上、無数の影がせわしなく地を這いずり回る。
が、その中心に立つキュウコン―――もといギラティナは毛の一本も動かさず、重たい静寂が周囲を支配していた。

「―――来たか。」
不意に影が硬直し、キュウコンが片目を吊り上げる。
数秒後、それまでそこにあった静寂をぶち壊すように、ふてぶてしい足音が一つ―――

「ケッ、まさかまたお前に呼び出されるとは思っても見なかったぜ。しばらく見ないうちに随分小さくなっちまったじゃねーか。先に言っとくがもうお前にこき使われる気はさらさらないぜ!」
「そーだそーだ!」
「オヤビンカッコイイ!!」
今のギラティナに以前ほどの威厳を感じないからであろうか、ゲンガーとゴースト達が今まで言えなかった文句を口々にぶちまける。
対してキュウコンは再び目を閉じ、影に意識を集中し始めた。

数分後
「―――我の役目は知っているな?」
文句の嵐が収まって来たのを見計らい、キュウコンが口を開いた。
「あん?何をいまさら・・・」
怪訝そうな顔をするゲンガーに構わず、キュウコンが続ける。
「我は主に創られてた時から、新しく生まれくる者に魂を与え、老い死にゆく者の魂をあの世に導いてきた。すべての魂は我の下に置かれ、その気になれば生死を自在に操ることもできたのだ。」
「できた・・・ということは、今はもうできないのですかな?ヒヒヒヒ」
突如背後から声が響き、ギョッと飛びのいたゲンガーの後ろからのっそりとサマヨールが前に進み出た。
「ゲゲッ、いつからそこにいやがったんだ!」
「みなさん、ヒヒッお久しぶりです。」


「それで―――、なぜ今は生死を自在に操ることが出来なくなったのですかな?ヒヒヒ」
「うむ、数年前、禁忌である神の真似事を成功させた者があらわれた。いや、正確には完璧な肉体と精神だけを作りだした。
生命の営みに逆らった生命の創造―――我にはその作りだされた者の魂が何所から来たのか、そもそも魂を持っているかどうかさえもわからないのだ。
そして今、その作りだされた者が足りないものを求めるかのように、禁忌を犯しさらなる生命を作りだした。この魂の愚弄ともいえる行為がこの生死の調和を乱し、我の力も狂い出してしまったのだ」
一気に話し終えるとキュウコンは大きく息を吐いた。
「で、俺たちに何をさせたいんだ?そんなに大事なことなら自分で止めに行けばいいじゃねーか」
すかさずゲンガーが喰ってかかる。
「そのつもりだ、だがこの器では奴を止めることはできない。かといって、これ以上生命を作りだされるわけにはいかない」
「つまり、私たちに時間稼ぎをしろということですね。ヒヒヒ」
察したサマヨールが感情の読み取れない表情でほくそ笑んだ。
「あぁそうだ、欲を言えば生命を生み出す装置を破壊してきてほしい」
「ケッ、そんなめんでぇことはごめんだね。他を当たってくれ」
踵を返し、部屋を出て行こうとするゲンガー。

「―――そんな時間はない。すでにピカチュウ達が作りだされた者共と対峙している。貴様らが行かねば、装置の破壊どころか無事帰っては来られないだろう。」
ピカチュウ、その言葉を聞きゲンガーの足がピタリと止まった。
「それでも断るというなら、強要はしない。さっさとここから―――」
「わかったよ行けばいいんだろ行けば。ケッ!勘違いするな、ピカチュウはこの俺が倒す。そのために行くだけだ。行くぞ、ゴースト共!サマヨール!」
「「「アイアイサー!」」」

我も急がねば―――早く新しき器を―――


―――ハナダの洞窟

額に滲んでいた汗が玉になって伝い落ち、地で小さな音を立てて弾けた。
「それでいい」
だが、ミュウツーは激昂することもなく、ただ静かに呟いた。穏やかな、満足した笑みを浮かべたようにさえ見えた。
「ならば止めてみるがいい」
目を深く閉じてミュウツーは集中すると、抑えていたのであろう力を一気に放出させた。
爆風のごとき力の波がそれを中心に広がる。俺は地を掴んで吹き飛ばされてしまわないように堪えた。

「さあ、早く私を完膚なきまでに打ち倒し、お前達が正しいと証明してみせろ」
両手から紫の煙のようなオーラを立ち上らせ、ミュウツーは俺達を見下ろす。
やるしかない。
俺は電気を束状に集中させ、ミュウツーに向けて放った。だが、ミュウツーは避ける素振りさえ見せず、片手で電流を逸らす。
続いて飛来する鋭い針をその身に届く前に見えない力でへし折り、渦巻く黒い球体を紫のオーラをぶつけて相殺し、拳に炎を纏わせ飛び掛かるミミロップを尾で軽々と弾き飛ばした。
「この程度だというのか? やはり、今のお前達では私を倒すことなどできはしないのか?」
落胆した様子でミュウツーは言う。


「これはどうにも、話し合いでなんとかなる状況でも相手でもないな。僕達も戦うぞ、リザードン」
「言われなくてもとっくにそのつもりだ!よくもハニーを!」
リザードンは怒りに猛り、ミュウツーに激しい炎を吹き付ける。
途中、炎は大の字を描くように燃え広がり、ミュウツーに向かっていく。
ミュウツーは素早く反応を見せ、球形に収束させたオーラを炎に放った。二つの技はぶつかり合い大きな爆発を起こす。
飛び散った炎は天井や床を焦がし、その内の一つがミュウツーの右頬を焼いた。
「中々の炎だ。もし直撃していれば私とて危なかったかもしれない。それに……ふむ、興味がわいた」
火傷を手の甲で拭いながら、ミュウツーはレッド達を見やる。手をどけると、火傷は跡もなく綺麗に消えていた。

「リザードンも結構本気で攻撃したと思うんだけど……これは参ったね。やっぱり一筋縄じゃいかないか」
苦くレッドは笑む。
「私はこの人間を確かめたい。フーディン、完成した四匹を出せ。私の邪魔をさせぬようオリジナル達の相手をさせろ」
「かしこまりました」


レッドが狙われている。援護せねば。
レッドに気を取られているミュウツーへ不意打ちをかけようと、俺が駆け出した瞬間、目の前に閃光が走る。
轟音と共に足元から電流が伝わり、体表を痺れと痛みが駆け巡った。

「ふん、外してしまったか」
どこか聞き覚えのある、偉そうな声が響く。
「駄目な奴。あの程度も当てられないわけ?」
それに続く突然のミミロップの言葉に、俺は振り向いた。
「お前、何を言っている?」
ミミロップは慌てて首を横に振る。
「私は何も言ってな――」
「そうよ。言ったのは、わ・た・し」
二重になって聞こえる、同じ声。片方は上からだ。
見上げると、岩に開いた窪みに、大小四つの影が並んでこちらを見下ろしていた。
「ちぇっ、バレちゃった」
一斉に飛び降り、影達は俺達の前へと降り立つ。
その姿は――。


「な……ッ!」
「う、そ……」
あまりの驚愕に、俺達はまともに声が発する事ができない。
「おどろいてる~? きゃはは~」
「お初にお目にかかります、オリジナル。ふむ、僕程に美しくはありませんね」
それは、ピカチュウ、ミミロップ、ロゼリア、ムウマージの四匹――俺達に限りなくよく似ていた。
「何なんですか、あなた達は……」

くく、と四匹は笑う。
「俺は」「私は」「僕は」「ムウマージは」
そして、それぞれが俺達を指した。
「お前」「あんた」「あなた」「ムウマージ」


鏡から抜け出てきたかのように、それは一挙一動から俺達そのものだった。
唯一、異なる点は、四匹の体に不思議な痣のようなものがあることくらいだ。
頬や額、あるいは脇腹など、各々が違う位置に、独特の紋様が描かれている。
また悪夢を見せられているのだろうか。いや、それは有り得ないだろう。
ここまで現実と錯覚させるような悪夢は、ダークライにしか造りえない。
奴は神々の監視の下で厳重に投獄されているはずである。
悪夢であったほうが幾らかましだと思うほどに、それは信じがたく、異様な光景だった。
「まさか。僕は騙されませんよ。どうせメタモンか何かが僕達に化けているだけでしょう」
ロゼリアの言葉で、俺は我に返る。
そうだ。メタモンならば、俺達そっくりに化けることも可能かもしれないと、自らに言い聞かせた。
だが、それは、そうであって欲しいという願望でしかなかった。
ミミロップによく似た“それ”は、大きく嘲笑う。
「バーカ、あんな下等な軟体生物共と化けたものと私を一緒にしないでくれる?私とこいつらは、ミュウツー様があんた達を元にして造った、れっきとした実物」
願望は、脆くも崩れ去っった。衝撃と、それが意味するおぞましさに、吐き気が込み上げてくる。
「つまり、僕達のコピーを造り出したということか。なんて恐ろしいことを……!」
嫌悪感に身を震わせ、ロゼリアは言う。
コピーであるミミロップは顔をしかめた。
「コピー? それはちょっと聞き捨てならないわ。私は、あんた達と違って、ミュウツー様による改良と調整を受けている。つまり――」
一瞬の内にコピーミミロップは本物のミミロップに詰め寄り、蹴りつけた。
「つ……ッ!」
ミミロップは咄嗟に腕で防いだが、その威力に大きく後ろへ吹き飛ばされる。
「すべてにおいてあんた達より優れているってこと!もう用済みなのよ、あんた達は。あははははははは!」
「ミミロップ!」
吹き飛ばされていった方へ振り向こうとした瞬間、俺の体に強い電流が走った。
「他の物にかまけている暇など与えんぞ、オリジナル」


コピーは蓄めた電気を開放し、全身へ纏わせる。
「お前にも、この程度できるであろう?来い。正面から正々堂々と、完全に叩きのめしてやる」
こんな奴に負けるわけにはいかない。ましてや自分の偽物などに。

「望むところだ」

同じように俺は電流を身の隅々にまで這わせる。あまりの出力の高さによる激しい負荷と、我が身さえ焼く痛みも構わず、敵を倒す事だけをただ考えていた。
「打ち砕いてやろう、オリジナル。身も、心も、完璧にだ!」
「負けるものか、偽物め。お前の存在を、許してはおけん!」
己自身を一筋の雷と化し、俺と奴は互いを目がけ駆け出した。

洞窟内に立て続けに響く轟音。
その方向、ぶつかり合う二匹のピカチュウを、ロゼリアは冷ややかに見やる。
「嫌ですね。暑苦しい。もう少しスマートに戦えないものなのでしょうか。ねえ、オリジナル?」
そう言い、ロゼリアが視線を戻した先には、もう一匹のロゼリアが油断なく身構え、
自分のコピーであるそのロゼリアを睨み付けていた。
「おや、そんな怖い顔をしないでくださいよ」
「うるさい、化け物。僕と同じ格好、同じ声で話さないでください……!」
ロゼリアは両手の花をコピーロゼリアに向け、花の中心へ光を集中させていく。
小さなため息をつき、コピーは呆れる仕草を見せた。
「無駄なことは止めた方がいい。ばかすかと遠距離で技を撃ち合ったところで、僕達の相性上、互いに大して効果がありませんよ。的も小さいため、無駄弾も増える一方。それでは美しくない」
ロゼリアは黙って両手を下ろす。集まっていた光は四散し、消えていった。
「では、どうしろと?」
コピーロゼリアは得意げにほほ笑み、葉っぱを一枚、上に放り投げた。そして両花から鋭く長い針を伸ばすと、宙を舞う葉をその切っ先で軽やかに数回撫で付ける。
たちまち葉は空中分解し、ぱらぱらと乾いた音を立てて地に降り落ちた。
「これで急所を一突き。お得意ですか?」
「……受けて立ちましょう」


「グッド」
コピーロゼリアは心の中でほくそ笑む。ロゼリアは着実にコピーロゼリアのペースに呑まれようとしていた。
「さあ、どこからでもかかってくるといい。何一つ、小細工無しでお相手しましょう。あなたは気にせず卑怯な手をいくらでも、遠慮などせず、ご自由にどうぞ、オリジナル。それでも僕の足元にも及ばないでしょうから、フフフ」
コピーロゼリアは嫌味たらしく笑い、刺突剣を構えた貴族のごとく気取った仕草で、針先をロゼリアへ向けた。
コピー達には絶対的な自信があった。自分達はあらゆる面において、元になった者達より勝っている。
どのような手段で戦おうと、負けるなど有り得はしない事だと確信していた。
それが、そのように造られたコピー達の、ただ一つの存在理由でもあった。
「あまり見くびると痛い目を見ますよ……!」
両手の花から剣針を伸ばし、ロゼリアは真直ぐに突きかかっていく。ピカチュウと同様、既に敵の術中に完全にはまってしまっていた。
ピカチュウとロゼリアは普段であれば、すぐに頭に血を上らせてしまうような直情的な性質では無い。
それはロゼリアの方が更に顕著だった。だが、自分自身と相対するという異常極まる事態に動転し、二匹は自分を見失っていた。
向かってくる針先を、コピーロゼリアは両手の剣針を交差させるように構えて受けとめ、押さえ込んだ。
そして、そのまま捻るようにして、ロゼリアの右手の針を中程からへし折った。
ロゼリアは動揺しながらも、残った左手の剣針で間髪入れずに斬りかかる。 しかし、今度は片手の剣針だけで滑らせるように受け流され、よろけてしまう。
その隙にコピーロゼリアは、ロゼリアの喉元に切っ先を突き付けた。
「一本です、よ。あっけないですねえ」
ロゼリアの頬を冷たい汗が伝う。だが、コピーロゼリアはそのままとどめを刺すことなく、ロゼリアを突き飛ばして転ばせ、距離をとった。
「まだまだこれからですよ。まだ針は残っていますよね? 早く立ち上がり、新しく伸ばしなさい。完全に心をへし折ってから、ゆっくりとどめを刺して差し上げます」


「大丈夫か?」
吹き飛ばされたミミロップに駆け寄りつつ、俺はあたりを見回した。
ロゼリアもどうやら苦戦しているようだ。アブソルとムウマージの姿はここから確認できない。
俺とミミロップのコピーは―――余裕からだろうか、こちらが動き出すのを待っているようだ。
「くやしいけど、あっちの方が一枚も二枚も上手みたい。可愛さなら絶対負けてないと思うんだけどなー」
冗談を飛ばすも苦痛の表情は隠し切れていない。
やはり奴らの身体はこちらよりも強固に構成されているようだ。認めたくはないが
「ミミロップ、耳を貸せ。」
「えっ、こんな時に愛の告白?」
「・・・・・」
「そ、そんな怖い顔しなくてもいいじゃない!」

「これほどの力を持つとは―――素晴らしい…っ!」
目の前に広がる光景にさも満足したようにフーディンが恍惚の笑みを浮かべる。
「こいつらを大量生産された暁には…グヘッ!」
まるで見えない拳でアッパーカットを喰らったようにのけぞり、倒れるフーディン。
その影からゆっくりとサマヨールが這い出してくる。
「ヒヒッ、着きましたよ」
「どーやら、アイツ等にはまだ気付かれていないみたいだな」
サマヨールに続いてゲンガー、さらにゴースト達が次々と飛び出した。

幸運にも、ミュウツー達のいる場所からちょうど岩の影になって見えない所に出たようだ。
目の前には何やら複雑そうな機械、その横にズラリと並ぶたくさんのカプセル―――
中は不気味な液体で満たされおり、そのいくつかには既にポケモンらしき影がゆらめいている。

スポンサーリンク


TOP