第29章 - 3

森の洋館前の茂み

この服装のおかげだろうか、すんなりとプレゼントを受け取ってくれる奴も多い。
特に子供は簡単だ、差し出すだけで目が輝き迷うことなく飛びついてくる。
しかし一通りこの島を廻ったにもかかわらず、俺が知っている―――神の記憶にあったあの鼠の手下どもの姿を全く見ない。
恐らく―――あの大きな屋敷に集まっているはずだ。

袋の中に残っているプレゼントは半分ほど、しかし既に日は暮れ、一日が終わろうとしている。
今のやり方では、今日中に配り終えることはできないだろう。
―――多少癪に障るが、奴らにプレゼントを配り、一気に終わらせるしかあるまい。
大きく息を吐き、ダークライが袋をしょいあげる。


同刻、隣の茂み

「ケケッ、去年のようなヘマはしないぜ」
「流石、ゲンガーさま!」
懲りずに今年もやって来たゲンガー。
だが今年のゲンガーは一味違う、去年の失敗を踏まえ「気合い球」を会得した。
スゴイぞー!カッコいいぞー!
「ところでオヤビン、後ろにいる気球みたいなやつはなんです?」
「ぷわわー」
「ケケケ、こいつはフワライドといってだな、壁抜けもできれば爆発もできるんだぜ。こいつと一緒に屋敷に忍び込み、パーティをメチャクチャにしてやるぜ!行くぞ!ゴースト共!」
「「「アイアイサー!」」」


ガツンッ

「―――ッ!」「ウゲッ!」
不意に、俺の肩に何かがぶつかり、バランスを崩す。
なんだ、このゴースト共は―――ん、俺にぶつかって来たこいつは…
「貴様、ピカチュウの手下か?」
「ケケケ、なーに言ってんだ。俺はアイツ等のパーティを邪魔しに来たんだぜ。お前こそ誰だ?」
「……………」
「オヤビン、知らないんですか?この赤い服、大きな袋にプレゼント、どう見てもサンタじゃないですか」
「ウゲッ!本当か!?」
―――どうやら、あの鼠とは敵対関係にあるようだ。パーティを邪魔され、プレゼントを配りきれないという事態は避けなければならない。
「貴様ら、今日は帰れ。そうすれば見逃してやる」
「ケッ、いくらサンタの言うことだろーと、それには従えないぜ。」

仕方ない、少し痛い目に合わせてやろう。


「ケケケ、なかなかやるじゃねーか」
「……………」
迂闊だった―――記憶が途切れている内に何か細工をされたらしい。
ほとんどの技が使えない、というよりもむしろ思い出せないという方が適当だろうか。
チッ、技さえ使えればこんな奴ら―――

バタンッ
「さっきから騒がしいと思ったら……喧嘩ならあっしらも混ぜなっ!」
「ヒャハー!」
「キィキィ!!」
「七武海として黙っているわけにはいかないな!」
「ケッケッケッ!」
「ウゲゲッーー!」

昨日からずっと飲んでいるのかこいつ等…完全に出来上がっている。
まあ、そんなことはどうでもいい。今の内にッ!

「おい、そこの狸。」
「おっ?」
「助けてくれた礼、と言ってはなんだが、これを受け取ってくれ」
「もしかしてサンタさんかお!ありがとうだお、クリスマス終ってるけどうれしいお!」
「なん…だと?」
「もうそろそろ1時になる所だお、まずいお!アニメの再放送が始まるお!」
「ちょっ、待て…」
クリスマスが終わった―――ということは―――つまり―――
「ぐおおおおおっっ!!」

夜明け、屋敷の前には暴れ疲れて眠りこけているドンカラス達、ふるぼっこにされたゲンガーとゴースト共、そしてぼろぼろになった赤い服とたくさんのプレゼントが転がっていた。

現実は非情ぷわ(・×・`)


体が芯まで暖まり、良い具合にほぐれたのを感じる。
確かに温泉というのは良いものだな。いつか旅を終えた時、多少他より条件が悪くとも温泉が湧く土地を優先し永住の地として選んでしまってもいいくらいだ。
賑やかすぎる入浴を終え、崖の際辺りに腰掛けて火照る体を涼ませながらそのように思っていた。

――いつか旅を終えた時、か。遠い先の話だ。
全世界。果てしなき道だ。先を案ずるだけで目が霞む程の。
生涯のすべてをかけて挑むことになるのかも知れん。旅路の途中に骨を埋める事になる可能性すらあるだろう。
……上等である。望むところだ。

ふぁさり、と不意に背中の方から布の感触が体を覆う。
「ずっと風に当たってると、湯冷めして体に悪いわよ」
振り向くと、手間かけさせないでよね、とミミロップが笑んだ。
「ああ、すまんな」
ふと思う。こいつらにはどの程度の覚悟があるのだろうか。
ただ自覚なく成り行きで今まで俺に流されてきただけではないのか、と。
その時は――。

「――お前に問おう。我が覇道、立ち止まることなく命尽くまで歩み続ける覚悟はあるか」
「え!もしかして、それプロポーズ?」
がくりと落ちそうになる肩と、沸き起こる頭痛を俺は堪える。
「……お前の耳は一体どういう構造をしているのだ。真面目な話をしている。もう旅の同行の無理強いはしない。お前達が求めるならばいつでも自由を――」
ミミロップはつまらなそうに息をつき、呆れたと言いたげな様子で手をひらひらさせた。
「何を今更……。そんなこと言ったらロゼリアちゃん達も怒るわよ。――答え、聞かなきゃわかんない?」
……愚問だったか。湯の熱で俺はどうかしていたようだ。

「ふん、平穏に生きる道へと戻れる最後の機会を与えてやったと言うのに。愚かな奴だ」
「だから責任とって、早く私をお嫁にしなさい」
「知らん、お前の自己責任だ」
「ちぇっ」


海岸洞窟への帰路、俺は昨日出会ったあの者――確か名前はミュウツーと言ったか――の事を何気なく思い出す。
無事に屋敷にたどり着けただろうか。
そして、失った記憶への手掛かりを見つけることはできたのだろうか。
あの者に出会った時、どうにも放っておくことはできなかった。程度は違えど、その苦しさを俺は知っている。
様子を見に行ってみるか。
そう思い立ち、俺はピジョンに屋敷まで案内するよう話す。

もしも何も手掛かりを見つけることが出来ず、途方に暮れているようなら――共に歩む道を与えてみよう。
もう一匹くらい厄介な旅の同行者が増えてもいいだろう。

……もっと――もっと早く行っていれば……少しは違う結果へと導けたのかもしれない。
だが、遅かった。

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