第27章 - 2

その数に圧倒され、俺もミミロップ達も唖然呆然とし木々を見回す。
ポッポにオニスズメにピジョン、色々な種類の鳥ポケモン達が、枝の上から俺達を見ている。
こちらを指――もとい羽先で指して小声でクスクス笑い合っている者達や、鋭い猛禽の爪をギラつかせながら俺やロゼリアを見つめて舌なめずりしている輩など、態度も様々だ。
「あんたらへのオモテナシはちょっと待ってほしいニャー。先に鳥達の報告を聞かせてもらうのニャ」
ゴホン、とペルシアンは咳払いをする。鳥達は静まり一斉にペルシアンへと目を向けた。
「既に知ってる奴もいると思うけど、この御一行が例のピカチュウサマたちニャー。鳥頭には厳しいと思うけどちゃんと覚えておいたほうがいいニャ。じゃ、いつもの始めるニャー」
ペルシアンがそう言うと、鳥達はいっぺんに口を開き、ぴーぴーと騒ぎだした。一つ一つが何かの報告のようだが、無数に重なり合いとてもじゃないが聞き取れたものではない。
目を閉じ、縁の部分だけ黒い耳をぴくぴくと忙しなく動かしながら、ペルシアンはそれを聞き入る。このような状態でちゃんと認識できているのだろうか?

数分程で鳥達の声は止み、ペルシアンはゆっくりと目を開けた。

「ふむふむ、ご苦労さんだニャ。そっちは特に現状変わらずのようだニャ。そこはそのまま様子を見ておくニャ。……お前ら、そんな細目顔のナンパ失敗の様子なんていちいち毎回報告しなくていいのニャー。そっちは――」
てきぱきとペルシアンは鳥達に一つずつ指示を出していく。
信じられんが、どうやらあの複雑に混じった言葉の波一つ一つをちゃんと聞き取り、理解しているようだ。


「じゃ、解散ニャー」
ペルシアンの一声で鳥達は四方八方に散っていく。
「よく利く耳だ。いつもあのような調子なのか」
「まあニャ。ちょっとしたコツは有るけど――」
コツ?――俺がそう聞き返す前にペルシアンの六本ひげがぴくりと何かに反応したように動く。
その直後に横の草むらが小さく揺れ、ペルシアンはそこに向かって勢い良く飛び掛かった。
ぢゅっ、と揺れた草むらから短い悲鳴が響く。ペルシアンは何かをくわえたままこちらに振り向き、それを地へと叩きつけて前足で押さえ付けた。
足の下で必死にもがいているのはコラッタ。長い前歯が目立つ紫色の小さなネズミポケモンだ。
「時々、こういうボクの所に集まる情報を狙ってタダで盗み聞きしようとする“鼠”がいるのニャー。今回は文字通りのネズミだったニャ……」
ピュィーッ、と長く高い音でペルシアンは口笛を鳴らした。一分もしない内に大きな羽音とともにピジョンが現れ、ペルシアンはコラッタをくわえて高く宙に放り出す。
ピジョンは滑空しながら投げ渡されたコラッタを両足でしっかりと捕らえ、ペルシアンの上空を一礼するように旋回した後、飛びさっていった。
「給料って奴ニャ。あの後にコラッタがどうなるかは考えない方がいいニャー。自然界はキビシーのニャ」
……その方が良さそうだ。


「そうそう、コツの話だったニャー。ああいう鼠がたまに居るから、盗み聞きされても分かりにくいようにこっちも工夫してるのニャ――」
ペルシアンの語った絡繰りはこうだ。
鳥達はいつも十数羽で構成された四つの決まったグループで行動させている。
集めた鳥達の情報をまとめ、ペルシアンに伝えるのはそのグループの一羽だけ。後は全員でわざと一斉にデタラメを適当に言わせているそうだ。
グループ中の決められた数羽でそのまとめ役は日替わり。ちょっとした暗号で明日の担当を伝えているため、ペルシアン達にしかその役が誰かはわからない。
コツはその決まった四羽だけに集中して耳を向けていればいいのだという。それでも相当難しいと思うのだが。
「ま、コツを教えてもフツーの耳では難しいと思うニャ。こんなことができるようになったのも、三年前のあの時から何故だか何しても調子がいいおかげかニャー」
そういえば、パラセクトもそのような事を言っていたと思い出す。

現ペルシアン達が三年前にシルフビルに来ていたことは俺は直接見ていないためわからなかったが、そこで一体こいつらの身に何があったのか――真っ先に浮かんだのはミロカロスの顔だった。
三年前にこいつらを何かに利用したのだな――今となってはどういう風に使われたのか知る由もないが。
“ツキ”が良くなったのは何らかの干渉の残留物、副作用と云った所か。
こいつらも気の毒に――。散々に利用された身としては同情を禁じ得ない。


さて、ペルシアンとの間に交わされた俺達が消えた後の三年間の話であるが、先の二匹と同様なものであった。
カントー中の情報に精通している分、誤魔化すのは更に難しかったとだけ付け加えておく。
だが、それもこいつで最後だ。心持ちが軽くなった分、積もる疲労も少ない。

「これから、あんたらはどうするんだニャー?」
指針としていたカントー勢の安否の確認はできた。ディグダのみわからないが、所在がペルシアンにさえわからないというのだから諦める他無い。
きっと恐れをなして逃げ出したんだニャ、とペルシアンは言う。
真偽の程はわからぬが、知った顔とはいえ所詮はディグダの穴に大勢いる内の一匹だ。
冷たいようだが代わりがいくらでも居る者にかまけている暇は無い。
様々な事があったが、今まで通りの勢力を広ぐ旅へとこれでようやく戻れるというわけだ。
これからのとりあえずの目的地はどうするか決めておかねばなるまい。そこでムウマージの拾った琥珀の事を思い出す。

「古代生物を蘇らせる研究を行っているという施設をお前は知っているか?」
「とーぜんだニャ。グレン島にあるポケモン研究所のことだニャー?そんな海の向こうにわざわざ用があるのかニャ」
「ああ、そうだ。何か方法は無いか」


「んー……鳥に送らせる事ができれば一番良いんだろうけど、それはちょっとニャー……」
そう云い、ペルシアンは顔を曇らせ渋る。
「何か問題があるのか?」
「前にあの辺りに送り込んだ鳥達が、行方不明になったんだニャ。生き残りの話によるとグレン島からの帰り、双子島近くを通りかかっていた頃だったらしいニャー――」

――その時、鳥達は突然の猛吹雪に襲われたそうだ。季節は夏への差し掛かり。有りうる筈の無い天候。
逃げる間もなく、襲いくる白く冷酷な氷雪の嵐に飲まれ、仲間達は次々と凍てつき墜ちていく。
唯一の生き残りであるポッポは、リーダーであったピジョットが自らが凍てついていく中で最後に振り絞った力で吹雪の外へと吹き飛ばされ、難を逃れたという。

「ってわけでそれ以来、あっち方面には誰も行きたがらないし、行かせて無いのニャー。だから空から行くのは諦めて――」
「待ってくれないか、ペルシアン」
樹上より突然、何者かの声がかかる。俺達が一斉に見上げると、そこには先程コラッタを連れていった筈のピジョンがいつの間にか枝に止まっていた。
「……こいつがその生き残りのポッポだった奴ニャ。――何のようだニャ?」
「何か気になるところがあって戻ってみれば――これが運命って奴だな。悪いとは思ったが話を聞かせてもらった。そいつらの空輸、この俺が引き受ける」


これは願ってもない話だが――。
「でもどうするんだニャ。お前だけで運ぶのは無理だと思うけどニャー。図体がでかくて重そうなのが二匹も居るしニャ」
ペルシアンはミミロップとアブソルの方を横目で見ながら尾で指した。むっとした表情を浮かべるミミロップと、申し訳なさそうに少し顔を俯かせるアブソル。
「……何とか仲間を説得してみるつもりだ」
「ほーお、はたして何羽集まってくれるのかニャー?あの辺は誰も行きたがらないのはお前も知っているはずだニャ。良くて三、四羽、とてもじゃないけど全員運ぶのは無理ニャ」
やれやれといった仕草で尾と前足をペルシアンはひらひらさせる。
ぐ、と言葉を詰まらせ、ピジョンは觜をもごもごさせた。
見ていられんな。仕方ない、助け船を出せねばなるまい。
「俺とムウマージならば自力で飛行可能だ。ロゼリアくらいならば我らで運べよう」
どうやって――と口を開きかけるペルシアンに、俺は頬袋から風船を取り出し膨らませて見せた。
ムウマージの方は説明不要であろう。今も椅子に寄り掛かるような姿勢で暇そうに宙をたゆたっている。
むむ、と今度はペルシアンが言葉を無くし、口をつぐんだ。
「助かった、これなら少数でも何とかなりそうだ」


「あーもう、勝手にするニャー。また謎の吹雪に襲われてもボクは知らないのニャー」
ペルシアンはそう言い捨てて俺達に背を向け、ぶつくさ呟きながらどこぞへと去っていった。

「……いいのか?」
「ああ。……ところでピカチュウ。俺の翼を貸す代わりに一つ頼みがある」
「頼み?」
そう聞き返すとピジョンはこくりと頷く。そして声を潜めながら切り出した。
「グレン島に行く前に双子島に寄らせてほしい」
双子島に何を、と言い切る前に、しっとピジョンが羽先でジェスチャーする。
「もうちょっと声を落としてくれ。ペルシアンには聞かれたくないんだ。あいつはああ見えて意外と仲間思いだ。もし知られたら、俺を縛り付けてでも止めようとする」
「……それで、理由は」
「ああ、例の吹雪の話は聞いたな?もう一年以上前になるか。あの時、俺は見たんだ。吹雪の中、大きな鳥の影のようなものが双子島へと降りていくのを」
ピジョンは顔を歪め、觜を強く噛み合わせた。
「吹雪の隙間に、ちらりと奴の姿を見た。青白く輝く羽、その姿は綺麗だった。おぞましい程に。直感したよ。この吹雪は奴が起こしているものだとな。その直後に奴の足爪に掴まれた氷塊と化した仲間に気付き、それは確信に変わった。俺は奴に復讐をしたい。俺を逃がしてくれたピジョットさんと仲間達のためにも。そして――……いや、それが理由だ」
やはり無賃乗降とはいかぬようだ。
「いいだろう」
「感謝する。今はもう飛ぶには暗い。俺も仲間を説得しなきゃならん。俺の巣がある木に寝床に丁度良い“うろ”がある。今日はそこに泊まるといい。明日の朝、出発しよう」

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