第25章 - 2

「あぁ~ん、やっと捕まえたわぁ」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、逆さ吊りの状態で俺を摘み上げる。
「さあ、一緒にア・ソ・ビ・マ・ショ!」
おぞましいほどの分厚い胸板が目の前に広がる。
「悪いが―――全力で断るッ!」
腰を限界まで捻り、奴の顔面に思い切りラムの実を投げつけた。
―――同時に、軽い電撃を放つ。

パンッ
軽く明快な音を上げ、ラムの実が弾け飛んだ。
いかにも不味そうな緑の液体が四散する。
「アァァアアァッ!目がっ!目がぁ~!」
激しい痛みに悶絶し、空いている二本の腕で懸命に目を擦っている。
もろ顔面に液体を浴びたのだ、相当目に沁みる筈だ。
どんなに筋肉を鍛えようとも、流石に目は鍛えられないだろう。
俺の体もかなり緑色に染まったが…今は忘れておこう。

しかし、ブンブンと腕を振り回しつつもしっかりと俺たち掴んでを離さない、大した根性だ。
「ハァッ、ハァッ」
やっと落ち着いたカイリキーの目からは未だにボロボロと涙がこぼれ落ちていた。
「もうっ!絶対許さないんだから」
「…それはこっちの台詞ですよっ!」
すでにロゼリアはラムの力で目を覚ましていた。
その顔には怒りがアリアリと浮かんでいる。
「覚悟してくださいっ!」
「えぇっ、ちょっとm―――」

ギガドレイン!
アッー!


「この……!糞ガキゃあ!」
養分の吸収攻撃を受け、カイリキーは身をびくびくと少し痙攣させながらも腕を振りかぶり、咄嗟にロゼリアを投げ飛ばした。
それを見計らい、尾に瞬間的に強く電流を流しこむ。スパーク音を立て、万力のように俺の尾を掴み挟んでいたカイリキーの手の筋肉がびくりと反応し、開いた。
落下しながら体の向きを整え、着地の瞬間に尾で地を踏張るように叩き、その勢いで奴の間合いの外に退く。

ちらと、ロゼリアが投げ飛ばされた方へ目をやると、ロゼリアは両手と両膝を地面につき、気分が悪そうにうなだれている。
アブソルに背中をさすってもらいながら、あんなもの吸わなきゃよかったといった類の、後悔や弱音を漏らしていた。
心には多少の傷を受けていそうだが、投げ飛ばされて物理的な傷を負った様子は無く、とりあえずは無事なようだ。ムウマージにでも受けとめられたか。

さて、後は盾を失った筋肉達磨をどうにかするだけだ。
バチバチと電気がほとばしる右腕を、鼻息を荒くしながら額に青筋を浮かべているカイリキーへと向ける。


突然、カイリキーは自分の両頬を強く数回叩いた。
そして大きく息を吐きだすと、浮き出ていた額の青筋が消え、体中から静かに殺気を放ち始める。
「あんた、中々、味な真似をしてくれるじゃなぁい。その目付き、嫌なものを思い出させてくれるわぁ。いいわよぉ――」
カイリキーは全身に力を込め、独特な構えを取る。身を守るということをを完全に無視した、一見、隙だらけの構え。
だが、異様な威圧感を放っている。
「全力を出して相手をしてやるわぁん!我が構えに防御は無用。肉は少し切られとも、次の瞬間には相手の体は骨ごと粉微塵よ。さあ、どこからでもかかってらっしゃい!」
奴の体が一回りも大きくなって見える。凄まじい気迫だ。だが――。
「それがどうした」
カイリキーは、え?と、今にも声に出して言いそうな顔をする。

目一杯、電流を集めた右腕を、俺は見せ付けるように掲げた。
「そ、そんな遠くから攻撃ってずるくなぁい?」
意図に気付いたカイリキーが明らかに焦った表情を見せる。もう遅い。
近づきさえしなければ、隙だらけの体を晒しているにすぎん。
普段なら当てにくく使い辛い技だが、的があれだけ隙だらけならば問題ない。
「我が制裁に問答は無用。言い逃れようとも雷一閃、次の瞬間には相手は黒焦げだ」

轟雷制裁。


イワヤマトンネルを無事、カイリキーの魔の手から解放することが出来た。
カイリキーは意識の無いうちに何重にも縄や蔓で緊縛し、捕縛。牢屋代わりに、使われていなかった横穴に放り込んで岩で入り口を塞ぎ、閉じ込めさせた。
起きた途端に暴れだされてはかなわん。自由にするかどうかは目覚めてからの態度次第だ。

イワーク達の今回の件に対する弁明や、三年の月日が流れる間に起こったこと、あれやこれやと話している内に随分と時間が経った。
トンネルの出口から入り込んでいる外の光は紅に染まっている。
心身ともに疲弊しているロゼリアの希望もあり、今日はイワヤマトンネルに部屋を用意させることになった。
俺もミミロップ達の記憶とイワーク達の話に食い違いが出ないよう、辻褄合わせのフォローに孤軍奮闘させられ非常に疲れた。

イワーク達が用意したそれなりの食事を終え、一人先に支度された自分の部屋へと向かう。
松明の明かり灯る、少しづつ上へと向かう長い通路をぺたぺたと歩む。
通路を抜けると、岩の壁へとたどり着いた。壁には三つ段差があり、まるで大きな飾り棚のような風貌になっている。
段差ごとに幾つか横穴が開いているが、一番上の段は、入り口の両脇を、どこからくすねてきたのか豪華な美術品の彫像で固められた横穴一つだけだ。
俺の部屋はその穴らしい。
段の端に用意された、体格に合わない岩作りの階段を必死に上りきる。
両脇に置かれた犬とも猫ともつかない不思議な生物の彫像に睨まれている気がしながら入り口をくぐった。
部屋は洞窟の中とは思えないほど綺麗に掃除されており、埃一つ落ちてはいない。
松明を灯していないのにうっすらと部屋は明るい。天井から月明かりが漏れだしている一帯があることに気が付いた。

その下に行き見上げてみると、天井は丸く切り出され、硝子がはめ込まれていた。夜空には星が輝いている。
急にあつらえられるものでは無い。この豪華絢爛さから、元々ここはカイリキーが自分のために作らせた部屋なのだろう。所々に飾られた装飾品の悪趣味さからもそれがうかがえる。
だが、あの天窓は中々の物だ。布団代わりに部屋の隅に敷かれていた良い匂いのする藁を、天窓の下へと持っていき寝転んだ。
今日はいつにも増して星空が綺麗だ。星々が川のように集い、輝いて見える。眺めている内に……徐々に眠りへと誘われ……――。


――む……朝か? 光が目蓋越しに照りつけている。
随分と長く眠った――筈なのだが……まだ眠い。野宿ではなく、ちゃんとした巣穴で眠れたのも久しぶりだ。
表には決して出ない偉業だが、俺は世界を二度も救ったのだ、もう少し寝ても罰は当たるまい。
天窓から差し込む光から、目を開けずに顔を背け、ふわふわとした毛布をたぐり寄せる。
――ん?毛布?おかしい、確か俺は藁の上に寝ていたはずで……
恐る恐る目を開けてみると、もこもこの白い綿毛の付いた茶色い二本の腕が交差して、俺の腹の辺りを抱き込んでいた。すーすーと、寝息のようなものを後頭部に感じる。
眠気でぼんやりとしていた頭が、焦りのようなものを伴ってどんどん覚醒していく。
ならば、ならば、たぐり寄せたこの毛布のようなものは!ぎくしゃくとした動きで体と首を捻り、後ろを振り向くと――!

「――んななななッ!な、何をしているッ! お前ッ?」
眠っているミミロップの腕の中から俺は必死に飛び出し、わけのわからない言葉を叫びながら、がさがさと背中で這うように遠ざかった。
「んー……?――なーに?うるさいなー……」
目を擦りぶつぶつ文句を言いながら、ミミロップが上半身を起こす。
「お前は何をしていると言っている!」
ミミロップは目を擦る手をぴたりと止めて下ろし、俺が寝ていた場所と今の俺がいる位置を、二度ほど交互に見直した。
そして俺に目を向け、イタズラが親にばれた子どものように、ばつが悪い顔をする。
「あは、は……ばれた?」

「なにを考えて貴様ぁ――ッ!」
俺の頭の中をぐるぐると感情が回る。頭が熱っぽくなり、言葉がまとまらない。
「えーと、あんまりにも気持ち良さそうに寝ているものだから――つい、釣られて……ねぇ?」
ねぇ?とはなんだというのだ!わけがわからん!
「だ、大体だ!何故、断りもなく俺の部屋に上がり込んでいる?」
「あ、朝ご飯を持っていくように頼まれたのよ。ピカチュウが中々起きてこないから。それとカイリキーが目覚めたっていう言伝も、ね」
む。


……奴が目覚めたか。はて、何かをうまくはぐらかされた気もするが。
「そこに置いておいたから、食べてから下に来るといいわ。……じゃあねー」
朝食を置いたテーブルを指し示した後、逃げるようにミミロップは部屋から出ていった。
――ふう、やれやれ、だ。ため息を漏らしつつ、朝食の置いてある趣味の悪いテーブルへとついた。

「ねぇ」
ミミロップがひょっこりと入り口の方から顔を出す。
「……まだ何か用か?」
俺は朝食にかけられた埃よけの紙をはぎ取ってくしゃくしゃ丸めながら、入り口の方を見やった。ミミロップはニヤッとイタズラっぽく笑う。
「私の腕と、あの筋肉だらけの腕、どっちがいーい?」
「んぐ――ッ?ぶはっ、げほっ」
口に含み飲みかけていた木の実ジュースを俺は盛大に吹き出し、咳き込む。
「ばかものッ!」
俺が投げつけた丸めた紙を、ミミロップは顔を入り口の外に引っ込めてひょいとかわし、笑いながら逃げていった。

何なのだ、あいつは!
頭から湯気が出ているような気がし、わけがわからない思考のまま俺は朝食をどんどん自分の喉の奥に詰め込んでいった。
結局、朝食は味はおろか、何を食べたかさえ覚えてはいない。しっかり休んだはずなのに、この件でまたどっと疲れた。
……はあ。


――シンオウ 森の洋館

森の洋館では、大掃除があっている。
色んなゴミがたまりにたまって、館からあふれそうになったからである。
「それにしても、なんでこんなにゴミだらけだポ…ゴホッ、なんだ?」
エンペルトがそう言うとドンカラスが答えた。
「ビッパがつれてきたヤルキモノが以前に引越しを手伝う仕事に就いていて、次から次えとガラクタを、運んできたって分けだ。」
ドンカラスが壊れた扇風機を運んでる途中にビッパが勢い良く入ってきた。
「ド~~~ン!!!またお友達をつれてきたお!!!!」
ドンカラスはイライラしながら言った。
「あぁっ!!只でさえたいへんだってのに、これ以上厄介ごとをもってくんじゃねぇ!!」
「まぁまぁ、ドンおちつくお。今回のお友達は今はとても役に立つお!!」
それを聞くとドンは、
「なに?今役立つヤツだと?」
「そうだお!!紹介するお!!マルノーム君だお!!」
ビッパがそういうと、なんだか分からないデカ物がのっそりと入ってきた。
「っで、こいつがどう役に立つんでぇ?」
「まぁ、見とくお!!マルノーム君、そこにあるゴミを食べちゃうお!!」
ビッパがそう言うと、マルノームがさっきの壊れた扇風機の前にたって何やらし始めた。
すると、なんとその扇風機を食べている。というより丸飲みしている。
「どうだお!!このマルノーム君なら、ここにあるゴミなんか全部食べちゃうお!!」
「なるほど、確かにこれは使えるかも知れねえなぁ。」
それから、マルノームはどんどんガラクタを飲み込んでいった。
洗濯機、岩、壊れたタンス、また岩、変な銅像と底無しにどんどん飲み込んでいった。
(ほほう、ビッパのヤツにしては、中々なヤツをつれてきたもんだ・・・)
などとドンカラスが思っていると、マルノームの姿が無くなっていた。
「あれ?マルノーム君どこに行ったんだお・・・あぁ!!!」


「どうしたんでぇ!!!」
ドンカラスが騒ぎを聞きつけてやってきた。
そこを見ると、マルノームが大切なテレビを丸飲みしようとしていた。
テレビの中から悲鳴なものが聞こえたような気がした。
「そいつをおさえろ!!!」
とドンカラスが叫んだ。
後から来た、エンペルト達がマルノームに飛び掛る。
間一髪の所でテレビを吐き出させた。
すると、マルノームの口から茶色い泥の様なものが凄い勢いで大量に噴射された。
それはビッパの方に飛んで行ったが、間一髪で避けてその泥の様なものが壁に思いっきり壁にぶちまけた。
その、壁を見るとなんだか分からないが凄いあとが残り、しかも凄い臭いを放っていた。

「マルノーム君の必殺技のダストシュートだお!!これはやばいお!!!」
「こいつはヤバイでさぁ………。そいつを押さえるんでさぁ!!!」
しかし既に遅く、マルノームの口から、さっき飲みこんだ物を一気に吐き出した。
洋館中パニックだった。洋館中のポケモンでマルノームを取り押さえ、気絶させた。
マルノーム吐き出した、粗大ゴミにぶつかってケガをした物もたくさんいた。
そして、洋館中が何とか静まった後に、ビッパはひどいお仕置きを受けたとさ。

続かない。


食事を終えた俺は部屋を出、岩壁の段差をひょいひょいと飛び降りた。
着地の際にマントについた砂埃をぽんぽんと手で払い、ミミロップ達が待っているであろう食堂代わりだった昨日の広間へと急ぐ。
徐々に下へ向かう長い廊下を渡り、左へ折れた曲がり角を抜け、広間への入り口が見えてきた。
入り口の横に、ロゼリアが腕を組みながら壁に寄り掛かって立っているのが見える。

「あ、ピカチュウさん」
俺に気付き、やっと来たかという様子でロゼリアは顔を向けた。
「おはようございます。相変わらず早起きですね」
そして皮肉めいた挨拶と微笑みを俺に投げ掛けてくる。
「……もう平気なのか?」
少し勘に触ったが、軽く受け流した。
怠惰にとらわれた俺も悪いのだ、気を付けねばな。
また奴に寝込みにおかしな事をされんよう、隙を見せないようにしなければならん。
「ええ、まあ……。まだ胸焼けはしますが」
苦笑いをしながらロゼリアは答える。
余程、色々と濃かったのだろうな。少し同情してしまう。

「それで、その胸焼けの原因たる奴はどうしている?」
ロゼリアは無言のまま左のバラで、広間の入り口側から見て左前方辺りにある、小部屋の入り口を指し示す。
あそこは確か食料庫兼厨房……?疑問に思い、覗いてみると――。

「ふんふんふーん」
鼻歌混じりに、四本の腕を駆使しながらカイリキーが木の実を素手で搾っていた。
筋肉ジューサーにより圧殺された木の実は、水気を完全に失って干からびたミイラとなり、手から滴る汗の混じった果汁は硬い木の実の殻でできた器へと注がれている。
色々と疑問は押し寄せてくる。
だが、まず最初に浮かんだのは――俺はもしかして“あれ”を飲まされたのか?
そういえば、思い返してみると朝食のジュースは嫌に塩気が――。

俺はふらふらと力なくロゼリアの隣へ行き、同じように壁に寄り掛かかり、二人でしばらく無言のままうなだれていた。
後に通りすがったミミロップとアブソルとムウマージ、実態を知らなかった手下達もこのジュースの正体を知り、同じように俺達に加わっていって陰鬱とした行列となったのは言うまでもない――。


「――で、お前は我が傘下に入るという解釈でよいのだな」
「ええ、い・い・わ・よぉん」
カイリキーが配下に加わった。

何故、拘束していたはずのカイリキーが自由に行動していた――俺があんなものを飲まされる羽目になった――のか。
それは牢の見張り役であったガラガラと、本来の調理役であったガルーラに聞かせてもらった。

早朝、目覚めた奴は牢を豪快に破り出てきたのだという。
うたた寝していたガラガラは飛び起こされ、ひどく驚かされて腰を抜かしたそうだ。情けない。
脱走を図るかと思われたカイリキーだが、ガラガラから俺達の居場所や動向を聞き出し、トンネルの奥へと向かった。

ここからはガルーラの話した内容だ。
朝食の準備中に突然、調理場へと姿を現したカイリキーは、ここは自分に任せろと言い出した。
ガルーラはひどく困惑したが、カイリキーに暴れる様子や何かを企んでいる風も無く、その場をカイリキーに任せ、自分は配膳に務めたのだという。実に余計なことをしてくれた。
事の原因、当の本人であるカイリキーはと言うと、久々に自分を負かした俺を――非常に迷惑な話だが――大層気に入ったらしい。
そこで自分の手料理を振る舞おうと、調理場ジャックを敢行。
恐怖の手汗ジュースを配膳させるという事態を引き起こし――現在に至る。

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