第22章 - 2

「――というわけだ」
ボーマンダは現状をキュウコンに話す。
「……なる程な」

「実に厄介な結界の張り方です。……おや?そういえばこのやり口――こそこそ隠れていた誰かの時と似ていますね」
キュウコンを横目で見ながら嫌味ったらしくミロカロスは呟く。
「……何が言いたい」
「貴方のおかげで大きなヒントを得られました。感謝する、と言いたいのですよ。あれを御覧なさい」
ミロカロスは尾の先で何かを指し示す。

「あの上の穴ぼこからビルに入れそうなのにゃー」
「了解ダ」
バンギラスとの決戦で開いた穴からビルに侵入しようとしているニャース達だ。

「……主がギラティナの領域に侵入する際に行ったあの方法か」
「ご名答。あの結界はギラティナの結界を模倣したもの。同じ欠陥があることでしょう」
「ギラティナ、我らが探知されない程、精神の奥に深く潜り込むにはお前の力が必要だ。協力しては貰えないか?」
「……いいだろう。貴様らに協力するのは不本意だが、死の律を乱す者を放ってはおけぬ」
「感謝する――」


九本の尾がある影がニャース達の地上に映る小さな影に重なり、水が排水溝に吸い込まれるように溶け込んでいく。
後を追うように細長い影と翼がある影が、ニャース達の影に同じように溶け込んでいった。
「――ふぎゃッ!?何か一瞬、フラッときたのにゃー」
「俺モダ。映像ガ乱レタ」
「僕も。ついにキノコに意識を持っていかれてしまうのかと驚いた……」

「でも、もう平気なのにゃ。さあ、早くあの怪しいビルを調査しに行くのにゃー!」
「ウム」
こうしてニャース達はシルフビルに無事(?)侵入した。果たして活躍できるのだろうか。

――うまく行きましたね。
――ああ。


ゴアァ――。
リザードンの尾の一撃を受け、カメックスは叫び声を上げ倒れる。
幾度も攻撃を受けとめた要塞のような甲羅も、レッド達の連携のとれた連続攻撃の前に遂に敗れた。

「くそ……!ちくしょう!」
もうグリーンには手持ちのポケモンがいない。グリーンは顔を伏せ、悔しさに体を震わせながら、拳を強く握り締めている。
「グリーン……――」
グリーンに歩み寄ろうとするレッド。しかし、突き飛ばすようにグリーンに押し退けられ、グリーンはそのまま下の階に向かうワープパネルへ走り去ってしまった。
引き止めようとした手をレッドは力なく降ろす。そして、帽子の鍔を片手で掴み、帽子を深く被って俯いた。

「何だか後味が悪い感じですね」
「……うん」
かける言葉もなく、ポケモン達はただそれを見ているしかなかった。

数秒の沈黙の後、ふっ、と小さく息を吐き、レッドがミミロップ達の方へ振り向く。
「君達、手伝ってくれてありがとう」
感謝し、笑みを浮かべてはいるが、その表情はどこか暗い。
「さて、まずはリザードン達の治療をしなきゃ。確かすぐ下に休憩室があったな。君達がこれからどうするつもりかわからないけど、気を付けて。それじゃあ、ね」
リザードンをボールに戻し、レッドは去っていった。


「これからどうするの~?」
「ピカチュウの後を追う?」
「でも、待機命令が出ていますからね……――」

レッドを見送り、ミミロップ達はピカチュウを追うか否か、相談を始める。そんな時、下の階から何かをワープさせてこようとワープパネルが光った。
慌てて戦闘態勢に移るミミロップ達。
「今度はどこに飛ばされたのニャー?」
だが、現われたのは敵ではなく、同じピカチュウ配下のニャース達だ。安心したように、ミミロップ達は構えを解く。
事情を知らないムクホークとフライゴンも、その様子を見て態勢を戻した。

「あれ?何であんたらがここにいるのニャー?」
「それはこっちの台詞よ」
「ボク達は、茶色のトゲトゲがディグダの穴に突然落ちてきたから、地上で何があったのか調査しに来たのニャー」
「そうだ!ここはニャースさん達に、ピカチュウさん達の様子を見てきてもらいましょう」
「フニャ?」
ロゼリアはニャース達に事情を話す。


「――わかったのニャー、ボク達に任せるニャー!」
「ウム、偵察任務ダナ」
「始めての仕事だね」
任務を与えられ、喜び勇んで先に進むワープパネルに向かう三匹。
「頼みましたよー――」
こうしてニャース達はピカチュウの下に向かった。果たして無事に戻ってこれるのだろうか。

――これは好都合。目撃者は少ない方がいいですからね。

神の加護。


――ハクタイの館。
「カァー、やっぱオボンの実はうめぇな」
時は丁度、昼食の時間。ドンカラスは食堂の椅子にどかっと座り、好物であるオボンの実をついばんでいた。
「ドンー!また友達連れてきたおー!」
ビッパの呼び声が洋館に響く。
大きくため息をつくドンカラス。無視して食べ続けても、うるさく響き続ける呼び声をBGMにしては飯が不味くなるだろうと、食事を止めしぶしぶエントランスにドンカラスは向かった。
「あ、ドンがインしたお。友達は外で待ってるからついてきてほしいお!」
「へー、へー……」
ビッパに連れられドンカラスは洋館を出、外に向う。


外にはモンスターボールを引っ繰り返したような配色の、球体が待っていた。
「マルマイン君だお!」
「――で?」
冷たく突っぱねるようにドンカラスは訪ねる。
「ふふふ、そんな冷たい態度でいられるのも今のうちだお。マルマイン君はとっても素早くてすごいんだお!」
「……ほお」
「光の壁とかを、その素早さで相手の攻撃が来る前に使って、みんな守ってくれるんだお」
「何でぇ、たまにはマシな奴をつれてくるじゃねえですか。おう、よろしく頼むぜ」
ドンカラスがぽんと軽くマルマインを叩く。
「あ!ドン、叩いたら駄目――」
「な――」
マルマインが突然、光を放ち、大爆発を起こす。
黒焦げになって立ち尽くしているドンカラスとビッパ。

「ゲホッ、このマルマイン君はとってもデリケートで……豆腐がぶつかっただけでも爆発しちゃうんだ……お……」
「ゴホッ、帰……れ……」

続かない


奴の呼び声に呼応し、部屋が――部屋がぐにゃりと歪み、揺らぐ。
嫌な感情の塊の様なものが部屋に渦巻く。何が起きるというんだ。
オオォオオォ――。
幾つもの金切り声や苦痛の叫びが重なったような咆哮を上げながら、床の隙間から黒い染みの様なものが浮き出てくる。
その悲鳴のような叫びは聞いているだけで何か――自分の中の見えない何かを、削ぎ落とされているような気分だ。吐き気がする。気が狂ってしまいそうだ。
「な、何なんだい、この声――気持ちが……悪い」
耳を押さえ、ニャルマーはがたがたと震えだす。

「ククッ、実に心地よい歌声だとは思わないか?」
最上級の音楽を聞いているとでもいうかのように、ダークライは邪悪な目を細める。
「――何をした」
「神のお遊びの真似事だ。随分と良い趣味をしているだろう?」
けらけら笑いながらダークライは答える。
床の黒い染みはなおも変化を続けた。泡立ちながら立体を為し、勢いよく縦に伸びる。先が丸く平面状に展開し、顔らしきその平面をこちらに向けた。
オオォングウゥ――。
平面に幾つもの顔状の泡が浮かんでは平面の中に沈んでいく。一つ一つが苦しそうな叫び声を上げている。

「さあ、ショータイムだ」


何という醜悪さ、吐き気を催しそうな邪悪な気配。
俺は電撃を怪物に放つ。電撃は直撃し、怪物の顔面が焼け焦げた。怪物は苦しそうに重なった叫び声を上げる。
「――うっ!?」
突然、俺の体に痛みが走った。そして怪物の顔面が徐々に修復されていく。――何が起こった?

「恨み、怒り、悲しみが籠もった実に良い歌声だ……」
叫び声を聞きながら、ダークライが恍惚とした表情を浮かべる。
こちらを敵と認識した怪物が床の黒い染みを触手のように伸ばし、俺に向かって振るう。咄嗟に横に飛び除け、反撃を放った。
触手は簡単に焼き切れ、怪物を電流が襲う。再び怪物が苦痛の叫び声を上げる。
――っ! まただ。俺の体に痛みが走り、そして怪物は傷を癒していく。

「いいぞ!喚け!苦しめ!」
口を歪ませダークライは歓喜の声を上げる。
これは敵の能力なのだろうか。呪いだとでもいうのか――。


「チッ!」
複数の染みがしつこく振り下ろされる。
俺たちは避け続けるしかなかった。

「ククッ、無様なダンスだな」
机にあったモンスターボール片手に取り、指先でクルクル回し始めた。
何かか思いついたように瞳が邪悪に光る。
「そうだ…俺に一生の忠誠を誓い、自らこのボールに入れば命だけは助けてやろう…どうだ?」

「……………」

呪いか能力か…何にせよ反撃するだけこちらにダメージが帰ってくる…
―――奴には勝てない。
俺の中で同じ思考が何度も繰り返される。
何か、何か手があるはずだ―――

「さて、楽しい遊戯もここまでだ…」
パチンッ
ダークライが指を鳴らす
「―――ッ!」
突然床からから青白い炎が舞い上がった。

「さぁ!踊れ!死のダンスフィナーレだ!」

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