第21章 - 4

「グリーンッ!」
「ここでゲームオーバーだ、レッドォッ!」

激しく衝突する因縁の人間二人。
一方、蚊帳の外でどうにも出来ないミミロップ他ポケモン達。
「……ねぇ、もしかして私達置いてけぼり食らってる?」
「……ですねー。でも――」
「ええ――」
「ぼわーん――」

「グガァッ!」
「しまった!耐えろ、リザードン!」
フーディンのサイコキネシスが命中し、リザードンは大きく仰け反ってしまった。
「止めだッ!気合い玉!」
フーディンがリザードンに追撃の光球を放つ。
(ここまでなのか……?)
その時、ムウマージがリザードンの前に庇うように飛び出した。
「君!?危ない!」
レッドが叫ぶ。だが、光球はムウマージの体に吸い込まれるようにかき消されてしまう。
「きかないよ~」
そう、霊体であるムウマージの体に光球――格闘タイプの技である気合い玉は効果は無いのだ。

「――放っておくわけには行きませんよね?」
「――その通り」
「すけだちだ~」


ずらりとリザードンの前に並ぶ三匹。

「何だてめえら!?ポケモンのくせに正義の味方気取りかよ?」

「ミュミュ(そんなんじゃないわ)」
「リィ……(どちらかと言えばその“正義の味方”とやらに倒される方ですかね……)」
「ぼわーん!(めざすはせかいせいふくー!)」

びしりと決めている三匹。
一方、乗り遅れ蚊帳の外の二匹。……ムクホークとフライゴン。
「乗り遅れた……」
「早く加わりましょう……」
「とほほ……」


シンオウ近海、様々なポケモン達が生息する豊かな海。
その一部である223番水道のポケモンをまとめあげ、海賊を営むポケモンがいた。
偉大なる(自称)海の男、その名は――

『キャプテン・フローゼル』

223番水道を少しそれた海域。
体長が十メートルを軽く超える巨大な鯨ポケモン――ホエルオーが豪快に波を割り海を進んでいる。
そのホエルオーの額にはドクロマークに似た模様がある。そして体にはオクタンが四匹、テッポウオが十二匹ひっついていて、まるで砲台が搭載されている海賊船みたいな出で立ちだ。
そのホエルオーの背に仁王立ちでふんぞり返っているのはフローゼル。223番水道の海賊のリーダー――キャプテンであり偉大なる(自称)海の男だ。

偉大なる海の男キャプテン・フローゼルはブイゼル他水棲ポケモンをまとめあげ、フローゼル海賊団としてシンオウの沿岸地域で大活躍していた。
しかし、それを妬んだピカチュウの配下達により討伐され、現在はその規模も大分縮小してしまっている。
海賊船代わりのホエルコ達も海賊団を離れてしまい、今や旗艦であったホエルオー一隻しかいない。
勇敢な戦闘員だったサメハダー達も狂暴で邪悪で野蛮で粗暴な黒猫に狩られ――

がつんっ


「誰が狂暴で邪悪で野蛮で粗暴な黒猫だって?あん?」
「あたた……」
マニューラに殴られ、フローゼルは書いている途中だった自伝を落とす。
何故ここにマニューラがいるのかというと、彼らフローゼル海賊団はドンカラス達に討伐された後、その傘下に入れられてしまった。
そして現在はピカチュウ配下達の海の交通手段として利用されてしまっているのだ。

「そこ書き直しな。強くて優しくて美しくて可愛くて格好よくて理知的なマニューラ様、だ。ヒャハハ」
「ううう……」
こっぴどくやられフローゼル他海賊達はドンカラス達に、まったく頭が上がらない。
「じゃあこの辺でいーぜ」
「へい。おい!野郎共、船を陸地に寄せろ!」
「アイアイサー」
フローゼルに命令され、ブイゼルは海に飛び込んで、ホエルオーに旗で方向転換の指示を出す。
本来の命令伝達役のペリッパーがドンカラスに撃墜された時の怪我で現在動けないため、苦肉の策で運用しているのだ。
船の汽笛の様な鳴き声をあげ、ゆっくり向きを変えて陸地に寄せて泳ぎだすホエルオー。海に飛び込んだブイゼルが息を切らせて必死にホエルオーに上がってくる。
「陸に着きましたよ……」
「おう」


「ご苦労さん。じゃ、また頼むぜアッシー君。ヒャハハ」
「へーい……」
ひょい、とマニューラは陸地に寄せてあるホエルオーから飛び降り、振り返りさえもせず歩いていった。
大きくため息を吐く海賊達。
「てめえら、船出すぞ……」
「アイアイサー……」
覇気無く出航する海賊達。真っ青な快晴も彼らの目には入らない。

しばらく陸地にそって航行していると――
「おーい!アッシー君、ちょっと船に乗せてほしいおー!」
ビッパが笑顔で海賊達に手を振っている。
ピカチュウ配下の最底辺であるビッパに対し、果たして海賊達は――!?

「へーい……。おい、船寄せろ」
「アイアイサー……」
……ビッパにさえ頭の上がらない彼らに明日はあるのだろうか?


~テンガン山~

「………急になんでそんなことを言うでござるか?」
「これ見てください」
スターミーはザングースに封筒のような物を渡した。
「挑戦状………?」
「そう。カントー屈指の剣豪、ストライクさんがザングースさんと手合わせしたいんですって」
自分の力を試したいと思っていた彼にとってこれ以上のチャンスはない。
「燃えてきたでござる!カントーへいざ出陣!」
「(………思っていたより単純な奴だな………)」
「でも、何でそれをスターミー殿が伝えに来たのでござるか?」
「ええとですね、自分はセキチクサファリパークに住んでるからストライクさんと親交があるんです。だから頼みを引き受けたんですよ」
「ストライク殿のことは噂で聞いていて、いつか拙者も手合わせしたいと思っていたでござる………」
「じゃあ一緒に行きましょう!自分がカントーを案内しますよ」
しかしここである問題が浮上する。
「………どうやってカントーに行くでござるか?」
カントーとシンオウでは大分距離がある。スターミーは泳いできたらしいがザングースにそんな能力はない。
「拙者カナヅチでござるよ………」


「ああ、そのことなら心配ありません」
そんなことは問題ではない、という感じで即答するスターミー。
用意周到のようだ。
「ちょっと前に海賊団が解散しましたよね。その海賊の一員だったホエルコがカントーまで乗せていってくれるそうです」
路頭に迷っていたホエルコを雇ったらしい。確かにホエルコならカントーに1週間で着くだろう。
「ホエルコも待ってます。港に急ぎましょう!」
「承知!」
2匹はテンガン山を抜け、ミオの港へ向かった………

~ミオの港~
テンガン山から遠い街だったので、二匹が着いたころはもう真夜中だった。
しかしこの方が都合がいい。昼間に出発すると人間に見つかる可能性が高い。
「ザングースさん、こいつがホエルコです」
「こんばんは………ホエルコです(「協力しなかったら10万ボルト」って………このヒトデめ………)」
どうやらこのホエルコ、脅されたようである。
「カントーまで宜しく頼むでござる!」
3匹はカントーに旅立った………


「くそぉ、こんなはずじゃなかったのによ……」
予想外の展開に苛立ちを隠せないグリーン。
(グリーンが動揺してる……これなら勝てるかもしれない!)
レッドは心の中でそう思った。

「ミュミュミュ(さて、とりあえず目の前の敵を何とかしましょう)」
拳に炎を宿らせながらミミロップが話しかける。
「リィリィ…(まずはそれが一番みたいですね…)」
ロゼリアも大量の花びらを舞わせながら答える。
「ぼわーん(ぜったいまけないよ~)」
漆黒の球を作りながらムウマージも勢い良く返事する。

「何匹ポケモンが来ようと、俺は絶対に負けられねぇ! 勝負だレッド!」
グリーンはそう叫びながらフーディンにサイコキネシスを指示する。
「僕だって負けない!リザードン、避けて火炎放射だ!」
レッドがそう叫ぶと同時に、ミミロップ達も攻撃を開始する。
技と技がぶつかり合い、砂埃が舞う。
晴れたときに立っていたのは、リザードン達だけだった。

「4匹一斉に攻撃だと……、ふざけるなっ!」
フーディンをボールに戻し、新たなボールを3つ放つグリーン。
中から出てきたのは、ウインディ、ナッシー、カメックス。
「俺は誰にも負けねぇ…」
グリーンは1人呟いた。


小ネタ・ザングースの旅 第3話

~海上~

「長いでござるね………」
「当たり前じゃないですか………シンオウからカントーに行くんですから」
ホエルコに乗っているザングースと、泳いでいるスターミー。
彼らはひたすらカントーを目指していた。
「ホエルコ殿、あとどれくらいでござるか?」
「あと3日ってとこでしょうね………」
あきらかに疲れているホエルコ。可哀想な奴である。
彼らの前方に黒い影が現れた。
「ん?あれは何でござるか?」
「ま、まさか………」
スターミーが息を呑む(元々こいつは息をするのだろうか)。
「どうしたスターミー殿?様子がおかしいでござるよ?」
「あれは………ギャラドスの大群ですね」
近づいてくる大群。20匹くらいいるだろうか?
「でも何でそんなのがここにいるのでござるか?」
「地方と地方をつなぐ海には凶暴なポケモンが住んでいるんです………彼らもここら一帯ではかなりの実力者でしょう」
「スターミー殿は博識でござるな!」
感心するザングース。そんなやりとりの間にも、大群は近づいてくる。
「あ、あの………ザングースさん?スターミーさん?」
珍しくホエルコの方から話しかけてきた。
「何でござるか?ホエルコ殿?」
「もうめちゃくちゃ近づいてるんですけど………?」


なんと3匹はあっという間にギャラドスに囲まれてしまった。
「敵の数は2、4………22匹だな」
スターミーはすぐに計算した。
「スターミー殿、10万ボルトは使えるな?」
「OK、もちろんです」
「行くぞ!」
ザングースが高くジャンプし、一匹目のギャラドスに拳を構える。
「チャーレム殿から教わった奥義でござる!」
電撃を込めた拳がギャラドスに命中する。
ギャラドスは電気に滅法弱い。水しぶきとともに海面に沈んだ。
素早くホエルコに着地し、一秒もたたないうちにまた跳躍、一撃を浴びせた。
ジャンプと攻撃を舞うように繰り返し、ギャラドスを撃破していった。
一方のスターミーは10万ボルトを的確にギャラドスに当てていく。
「自分は射撃得意ッスよ!」
ホエルコはただ見ているだけだった。何もすることが出来ない。
「すごい………」
一気にギャラドスの数が減った。残りは3,4匹だろうか。
「すごいですよ!これなら勝てそうです!」
歓喜するホエルコ。
「………いや」
「不利でござるよ………」
「え………?」
「拙者もスターミー殿も、電気技のPPが尽きてしまったでござる………」
「しかも残っているのは大群のボスだ………」

続く


ハクタイの洋館の一室。

「ちっ、うざってぇ」
ドンカラスが何やら不機嫌そうな顔をして、窓の枠に頬杖をついて外を眺めている。
その見つめる先には桜が綺麗に咲いていた。ハクタイの森にも春がやって来たのだ。
ドンカラスは決して桜が嫌いなわけではない。むしろ毎年、花が咲くのを楽しみにしている程だ(楽しみにしているのは花ではなく、花見の宴会で出る豪華な料理と酒の方だという噂だが)。
機嫌が悪い理由は桜の木の下にあった。

「今日は森が騒がしいポ……ゴホン」
外を見るドンカラスの後ろでエンペルトが浮かない顔をしてぼやく。
桜の木の周りにはビニールシートが敷かれ、その上では人間達が好き勝手に騒ぎ宴会をしていた。

「去年迄はこんなんじゃ無かったってえのに……カーッ、人間め!余計な事してくれやがりやした」
ドンカラスは腹立たしそうに觜を歪め、窓枠を叩く。
去年までは花が咲く季節でも、窓から見えるあの辺りは人間は来ず静かなものだった。
ドンカラスは毎年そこにヤミカラスを引きつれ、花見の宴会を楽しんでいたのだ。
だが、今年はあの賑わいよう。原因は雑誌に『花見の穴場スポット』としてあの場所が紹介され、人間達に穴場を知られた事にあった。

「用意した料理とお酒――どうする?」
エンペルトが恐る恐る機嫌の悪いドンカラスに尋ねる。
「勿体ねえ、あっしらで何とか相応の手段で処理――」
「おーい、ドンーッ!」
そんな時、エントランスホールの方からビッパの何時もの嬉しそうな呼び声が聞こえた。


「こんな時に何でえ、あの出っ歯……」
ビッパに呼ばれ、苛々した様子でエントランスホールへドンカラスは向かう。

エントランスホールの一階ではビッパがおかしな植物ポケモンらしい物体を連れていた。
その物体は体が花びらのようなものに包まれていて、まるで花の蕾のようだ。
「あ、ドン!また僕の友達連れて来たんだお」
手摺りに掴まり二階の方から見下ろしているドンカラスに気付き、ビッパが一階から手を振り叫ぶ。
「何でぇ――そいつら」
わしわしと頭の帽子みたいな羽毛をいじりながら、面倒臭そうにドンカラスが尋ねる。いつもの光景だ。
「チェリムく――」
「で?」
さっさと切り上げて追い返そうとするドンカラス。最早ビッパの連れてくるポケモンに全く期待はしていない。
花見が中止になり機嫌が悪いこともあり、あからさまに投げやりな態度だ。
「何だかいつも以上に冷たいお……。チェリム君は花が開くと桜みたいに綺麗なんだお」
ドンカラスが眉の辺りをぴくりと動かす。
「――何?桜だと?」
「そうだお。でも――」
これは使える――ドンカラスは目の色を変えた。パチンと羽を鳴らしてヤミカラス達を呼び出す。
洋館のそこら中からヤミカラス達が羽音をたて、エントランスホールに集まって来た。ゴホン、と咳払いをするドンカラス。
「クカカ、てめぇら!花見だ、宴会の準備を始めろ」
「へ?人間のせいで中止になったんじゃあ?」
ヤミカラス達は疑問の声を上げる。
「“代わり”が届いたんでえ。さっさと始めなせぇ」
「へ、へ~い!」

「最後まで話を聞いてほしいお……」
ビッパを無視し準備は進む――


「クカカカカ!乾杯!」
屋外の人間が滅多に来ない広場に、チェリムを囲むようにビニールシートを敷き、宴会を始めるポケモン達。

「ドンの機嫌が直って良かったポチャ……」
安堵の息を漏らすエンペルト。
あのまま花見が中止になりドンカラスの機嫌が直らなければ、エンペルトはまた夜遅く迄ドンカラスの愚痴酒に突き合わされる羽目になる所であった。

「この度は我がユキノオー一族もお呼びいただき誠に――」
「止めてー!自分サーフボードじゃな――ギャフッ」
「ヒャッハー!なっみのりー!」
「ガハハハ!いいぞいいぞ!では七英雄エレキブル、一発芸としてこの岩を一撃の元に粉々に――」
「ちょ、オイラ生きてるから!止めてくれー」

好き勝手に騒ぐポケモン達。
「誰一人としてこっち見てないお……」
チェリムの傍らで寂しそうにビッパが嘆く。
実はビッパが連れてきたこのチェリム、非常に恥ずかしがり屋で人前では決して咲けないのだ。
つまり現在も咲いていない蕾の状態なのだが――誰も見ていないし気に留めていない。

……要するにここに集まるポケモン達は、楽しく騒ぎ美味しいものが飲み食いできるなら、その理由と要因等どうでもいいのである。
花より団子。

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