第20章 - 3

――確かにすごい力だけれど……。でも、何だか……
ピカチュウはニャルマーを見ながら思う。
力を使うたびにニャルマーの命が削れていっているように、ピカチュウには見えた。

「我が膝をつくなど、いつ以来の事か――」
バンギラスは付いていた膝をあげる。
「かつての宿敵と邂逅し、この様な強者とも……何という日よ。まだだ……まだ味わい足りぬ!」
砂がバンギラスに集い、傷ついた岩の鎧を修復していく。

「あれだけやっても立ち上がるのかい…タフな奴だね」
ニャルマーは舌打ちし、憎悪に満ちた目でバンギラスを睨む。
「それなら立ち上がらなくなるまで、何度でも叩きつけてや――」
「待つんだ」
ピカチュウがニャルマーの行く手を右手で遮り、止めた。
ニャルマーは自分の前に突き出された、邪魔な右手を払い除ける。
「邪魔だよ、どき――ッ!?」
言葉の途中でニャルマーは苦しそうな顔をし、前足からがくりと倒れこむ。
「やっぱりか……その力は君には大きすぎるよ。もう止すんだ」
「うるさいね……復讐さえ出来れば、アタシがどうなろうと関係ないんだ!アンタに……アンタなんかに邪魔はさせない」
よろよろとニャルマーは立ち上がり、右腕に光を集めようとするが、
「ごめん――」
ピカチュウはそう呟いた後、ニャルマーに加減した電流を流し気絶させた。

「君まで死なせるわけには行かない。後は任せて。」


「貴様、何をやっている。我の戦いの邪魔をするか!」
「悪いな、バンギラス。ちょっと待ってくれ」
声を荒げるバンギラスをよそに、ピカチュウは気絶しているニャルマーを担ぎ上げる。
「この子はもう戦えない。俺がまた相手になる。戦えなくなった者に追い打ちなんて、野暮なことはしないよな?」
「……よかろう。早くそいつをどけろ」
バンギラスは渋々了承し、ピカチュウは安全そうな部屋の隅にニャルマーを運んでいく。
そして苛々しながら待つバンギラスの下に、急いで戻った。

「待たせたな」
「どうにも調子が狂わされる。その甘さ、一度死んでも治らぬか」
バンギラスの言葉に、ピカチュウは苦笑した。
「はは、そうみたいだね。さて、時間が無い。さっさと決着をつけよう、バンギラス」
「……来るがいい!」


――気付くと俺は、床に倒れていた。
何だったんだ、あの声は……いや、それよりバンギラスは!
俺は急いで飛び起き、辺りを見回すがどこにもバンギラスの姿は見えない。
壁には大きな穴が開き、床には所々に爪で掻かれたような深い傷や、電撃か何かで黒く焦げた跡がある。

「気付いたかい、ピカチュウ様」
後ろから声をかけられ、俺は振り替える。ニャルマーだ。戻ってきていたのか?
頭が混乱しそうだ。状況がさっぱり飲み込めない。
「一体、何が起こった?バンギラスは?」
「……さあね。それより今はダークライさ。早くミミロップ達を追ったほうがいいんじゃないかい?」
何かはぐらかされた気もするが、確かにダークライの方も気掛かりだ。
「……そうだな。先を急ぐぞ」
俺はワープパネルの方に歩みだす。

「……――」
後ろでニャルマーが何か呟く。
「どうした?」
「何でもない、早く行くよ」


「今日も凄い友達を連れてきたお!!」
森の洋館にビッパの声が響く。
ドンカラスはほっとくとうるさいので渋々ビッパの相手をすることにした。
「……で?今日は誰でぇ」
「友達のドーブル君だお!!」
「で?何が出来る?」
「絵が上手いお」
「じゃあちょっと描いてみろ」
「もう描いて貰ったおww」
「ほう、どれどれ……」

「・・・・・・」
「そっくりだお!!」
「俺はこんなにゴロゴロしてねぇー!!」
「だ、だお!?」
「帰れ!!」
「………結構上手いと思うポ……思うが」


――洋館にて。
ビッパから無理矢理ビデオデッキを奪い取ったドンカラスは、極道ものの映画を見ていた。
「カァ~、やっぱり『極道の♀達』に出てくるマニューラの姐御は妖艶な美しさでたまんねえなあ」
画面には主役が連れた、色違いの桃色のマニューラが映っている。
それを憧れの眼差しで見つめ、独り言を言いながら惚けているドンカラスだが――
「……はっ!」
不意に何か嫌なものをを思い出してしまったのか、ドンカラスはそれを振り払うように、ブルブルと首を振った。
「カー、嫌だ嫌だ。同じマニューラでも、キッサキのアホとは大違いだってんだ、クァハハ」

――ニューラのアジト。
「クシュッ!」
「どーかした、マニューラ?何とかは風邪引かないはずよね?」
「ヒャ~ン、ズズッ……何か今、糞カラスにすげームカつく事言われた気がするぜ。ちょっと糞カラスんとこ行ってくる」
「変な電波でも受信したのか?ギャハハ」

――洋館。
まだドンカラスは映画の続きを見ていた。まるで映画の中に入り込んでいるかのように熱中している。
コンコン、とドアをノックした後、エンペルトがドンカラスがいる部屋のドアを開けた。
「ドン、マニューラが来たぞ。下のエントランスで待っている」
「……何色だ?」
ドンカラスは振り向かずにそう聞いた。そのおかしな問いに、少し戸惑いながらもエンペルトは答える。
「いつも通り黒だけど」
ドンカラスは大きなため息をつき、やれやれと重い腰をあげる。
そして「だろうな、来るわけねえよな」等とぶつぶつ呟きながら、エントランスに向かっていった。
「……?何なんだポチャ?」


エントランスの二階にやってきたドンカラスは、二階の手すりにひょいと止まり、下を見下ろした。
下にいたマニューラがそれに気付き、ドンカラスの方を見上げる。
「やいやい!何しに来やがった糞ネ――んがっ!」悪態をつき終わる前に、ドンカラスの顔面に氷塊が直撃する。
効果は抜群、手すりからぐらりと落下し二階の方に倒れこむドンカラス。その拍子に何かを一階に落とした。
「ヒャハ! あー、何かスッキリした。用はこんだけだ、じゃーな──ん?」
満足して帰ろうとしていたマニューラが、ドンカラスの落とし物に気付き拾い上げる。例の桃色のマニューラが写った写真のようだ。
「ん?これ、俺のダチの写真じゃねーか」
「痛てて、こんの糞ネ──な、何ぃ!?」
フラフラと起き上がろうとしていたドンカラスだが、マニューラの言葉を聞いた途端、飛び起きて一階に急いで降りてきた。
そして写真をマニューラから取り上げ、息を荒げ問い詰める。
「こ、この方とダチって……ど、どういう事でえ!?」


「あん?オレがコトブキに暇潰しに行ったとき知り合って──」
ドンカラスは目を輝かせ、マニューラの両手をがしりと羽で掴む。
「つ、連れてきたり出来ますかい?」
「あ、ああ。何なんだ、さっきから必死で気持ちわりーな。わかったから離しやがれ」
マニューラはドンカラスの羽を振り払い、少し後ずさった。
「おっと、すまねえ。じゃ、じゃあ頼んでもいいですかい?」
「しょうがねーなあ。明日にでも連れてきてやるよ。代わりに何か奢ってもらうからな」
「へっ、酒でも食いもんでも何でも好きなだけ奢ってやらあ。いやあ、楽しみだ」

──翌日。
ドンカラスはいつものテレビのある部屋に大きな鏡を置き、鼻歌を歌いながら身だしなみを整えている。
蝶ネクタイに羽飾り──普段からは考えられない着飾り様だ。
扉を二回ノックする音が部屋に響いた。続けて扉を開ける音がドンカラスの背後から聞こえる。
「おお、エンペルト。この格好どうだ?キマッてますかい?」
鏡ごしにエンペルトを確認したドンカラスは、くるりと振り返りポーズをとる。
「……はあ、大丈夫だいじょーぶ。それ、朝からもう十回は聞いた。そんなことよりドン、マニューラだ。下のエントランスで待っている」
「おお!そうですかい!」
部屋を飛び出し、嬉しそうにドンカラスはエントランスに駆けていく。
「本当に何なんだポチャ……?」


ドンカラスはエントランス二階の手すりに飛び乗り、下を見渡す。
エントランスの一階には黒色と桃色、二匹のマニューラが待っていた。いつもの黒いマニューラがドンカラスに気付く。
「おー、糞カラス。昨日言ってたダチを連れて来てやったぜ」
ドンカラスはゴホンと咳払いをし、二階から下に飛んで降りた。そして桃色のマニューラに向かいお辞儀する。
「こんな汚ねえ所に、ようこそいらっしゃいました。えー、あっしは──」
桃色のマニューラが口を開く。
「おい、キッサキの。こいつがおめーの言ってた糞カラスかよ?」
「ああ、そーだ。間抜けな面してやがんだろ?ヒャハハ」
ドンカラスは桃色のマニューラの、黒色によく似た乱暴な口調に唖然とする。
「……あの、えーと、本当に『極道の♀達』に出ていたマニューラさん何ですかい?失礼ながら、映画での淑やかそうなイメージと全然違うんで」
「ああ、そーだ。これでも売れっ子なんだぜ。映画とイメージが違うって?馬鹿かオメー、あんなん演技に決まってんだろーが。アヒャ!」
ドンカラスの中で何かが音を立てて崩れていく。
「どーだ?糞カラス。こいつ、オレと似てんだろ?出会ってすぐに意気投合しちまったんだぜ、ヒャハハハ」
「クハ、クハハハハ……糞ネコがもう一匹……」
ドンカラスの恋は終わった。

続かない。

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