第20章 - 2

奴に突っ込む瞬間、ボルテッカーを解き奴の上に飛ぶ。
「なんだとッ!」
「…お前の目を潰させてもらう」
尻尾を奴の残った目に叩きつける。
グアアァァァ………

砂嵐が収まる。
勝った…奴も目が見えなければ戦えまい。
…しかし何だったんだ今のは………俺の意思では無かった。

「…今の攻撃…やはり似ている…」
………!
奴は何事も無かったかのようにそこに立っていた。
目も元に戻っている。
…さっきのは身代わりか―――
「まさか以前と同じ方法で目を潰されそうになるとはな」

何を言っている?


バンギラスは狂喜の声を上げる。
「血沸き、心踊る……我が心が疼く、疼きおるわ!同じ種族!同じ身のこなし!その小さき体でよくぞそこまで!またこの様な者と合間みえるとは!愉快だ――」
バンギラスの感情の高ぶりに呼応するかのように、また砂嵐が暴れ狂い始めた。
そしてバンギラスが放つ目視できる程の闘気が龍の形を成し、奴の周りを砂と共に舞い踊る。
「楽しいぞ!これだから闘いは止められぬッ!」
地を数回蹴り、バンギラスは一気に、こちらとの間合いを詰めてくる。――速い。
「ちっ!」
「逃がさぬッ!」
咄嗟に距離を離そうとするが、奴の剛拳が素早く俺の動きを捕らえ、壁に叩きつけられてしまった。
「ッ!」

よろめきながら何とか立ち上がるが、足がふらつく。俺は地に膝をついてしまう。
何という力、速度。化け物か。
「さあ、早く立ち上がれ、構えろ、雷撃を放て、闘え!我を楽しませろ!早く!早く!早く!早く!早くッ!」

《参ったな。こうなったら手がつけられない》
頭に声が響く。――誰だ?


《俺を忘れたのかい?》
アルセウスか?
《違う》
ディアルガ? それともパルキア?
《違う違う。いいよ、思い出せなくても。俺は君がまだ小さかった時に死んでいるから。……少し寂しいけどな、はは》
何なんだ?
《ピチュ……いや、ピカチュウか。無事に立派に成長してくれたみたいで嬉しい》
だからお前は何なんだ。
《呼び戻された魂。簡単に言えば幽霊かな》
ふざけるな。知らない霊になどとり憑かれる覚えはない。俺の体から出ていけ。
《――の――にこの態度。こんなひねくれた子に育つなんて――さんは悲しいぞ》
? 何と言った?
《おっと、そんな事を言っている場合じゃないみたいだ。時間が無い。さっきみたいに少しの間、体を貸してくれ》
何ぃ!?
《大丈夫、あのバンギラスとは何度も戦った。それにピカチュウの体の扱いには慣れている。何てったって俺も君と同じ――だったんだから》
おい、お前は……
《こんな風に、成長した君と話す機会を与えてくれるなんて、神様は随分と粋な人みたいだな。》
何故だ。勝手に涙が溢れてくる。
《泣くなって、男だろ?さて、しばらく寝てるといい。もう子守歌がいる歳じゃないよな?もうちょっと話したかったけど……それじゃあ、な》
待ってくれ――――

「どうした?もう終わりだというのか!?」
「……いや、まだだ」
ピカチュウは立ち上がる。
「久しぶりだな、バンギラス」


――戻りの洞窟。

霧がかった洞窟の奥。
ミロカロスが巨大な影と対面している。
「……これでいいのだな」
巨大な影がミロカロスに問う。
「ええ」とミロカロスは頷いた。
「これで借りは返したぞ。」
忌々しげに巨大な影は言う。
ミロカロスはにこりと微笑んだ。
「はい、ご苦労さまでした」

「……本来、転生を待つ死者の魂を呼び起こし、生者に憑依させるなど禁忌。もう二度とこのような事に協力はせんからな」
巨大な影はミロカロスに釘を刺す。
「わかっていますよ、ギラティナ」――


――シルフビル。

「貴様、何を言っている?」
バンギラスは怪訝な顔をする。
ピカチュウはぽりぽりと頭を掻いた。
「ありゃ、お前まで俺を忘れているなんて寂しいね。『宿敵』を忘れたのか?」
「宿敵……。!まさか」
バンギラスは、はっと何かに気付いた様な表情をした。
「やっと思い出した?」
「そうか。くく――」
バンギラスの口元が弧を描く。
「そうか!ははははははは!信じがたいが間違いない。地獄の底からから甦ってきたか!」
バンギラスはかつての宿敵との再開に歓喜し、叫ぶ。
「最早、我らの間に言葉はいらぬ!戦おうぞ、宿敵よ!」
バンギラスが腕を前に突きだした。
すると、吹き荒れる砂の一部が凝集して石の刃となり、ピカチュウを襲う。
「おっと、危ないな」
ピカチュウは電撃を放ち、襲い来る無数の石の刃を迎撃する。
電撃を受けた石の刃は爆発し、辺りには煙が立ちこめた。


「流石だな!」
バンギラスは煙に紛れ、ピカチュウの目前に迫ってきていた。
「ッ!さっきのは目眩ましか!」
振り下ろされた鋭い爪を、ピカチュウは後ろに跳躍して紙一重の所でかわした。爪の風圧で頬が少し切れ、血が流れだす。

「速い、あの闘気をまとったバンギラスはやっぱりきっついな。こんな時にヤミカラスの黒い霧があれば――」
ピカチュウの言葉に応えるかのように、黒い霧が部屋を包む。
「! この黒い霧は……」
バンギラスの周りを舞っていた龍の闘気が、霧にかき消されていく。

「これをご所望かい?ピカチュウ様」
戻ってきたニャルマーが猫の手でドンカラスの力を借りたようだ。

「君は………」


「…何だ貴様、なぜ戻ってきた?」
怪訝そうにバンギラスが唸る。

ニャルマーが歩き出す。
「まさかこの時がくるとはね…とうに死んだと思っていたよ…」
「…そうか君はあの時の…」
驚くピカチュウの前をすり抜け、ニャルマーがバンギラスへとゆっくり歩み寄っていく。

ひたとバンギラスの目を見据えた。
「アンタ、アタシのことわかるかい?」
微かに声が震える。
「………………」
バンギラスは微動だにしない。
「待て、君はあの時のお嬢さんなんだろ?」
「アンタとの話は後だよ」
ニャルマーは足を止めない。
「アタシが今までどんな思いで生きてきたか…」
16の光球が周りを回り始める。
「ここでわからせてやるよッ!」
不意にニャルマーが走り出す!灰色の光球が強く光り右腕に収束する。
「喰らいなッ!」
怒りをあらわに、鋼とかした腕を力任せに振り下ろした。
「…思い出したぞ…」


ドガツッッ!
激しい衝撃と共にビル全体が揺れる。
攻撃を防いだバンギラスの腕が鋭く傷つく。
すばやくバンギラスの腕を蹴り間合いを取った。
「…どうやら我の目が曇っていたようだな」
自分の傷ついた腕には目もくれず、口元を歪める。
「復讐のためにここまで力を付けてくるとは…いったいどうやって…いや、そんなことはどうでもよい!」
口に笑みが広がる。
「その力、怒り、すべてを我にぶつけてこい!存分に楽しませてもらうぞッ!」
待ちきれないようにバンギラスが地を踏みしめ、はじけるように飛び出す。

「お嬢さん、ここは協力して…」
「アンタは黙って見てな!アタシひとりで十分だよッ!」
「やれやれ…」
ピカチュウが一歩下がる。

「見せてみろッ!貴様のすべてを!」
全体重を乗せ、腕を振り下ろす。
「今のアタシに敵うと思っているのかい?」
水色の光球が光り、氷の壁を作り出す。
「面白いッ!」
正面から力がぶつかりあう!
氷が軋み、砕け散る。
「遅いよッ!」
砕けると同時に黄色の光が右腕に集まり唸りを上げ、懐に飛び込む。

バキッ!!
拳がバンギラスの腹を抉り、吹き飛ばす。
「グオォ………」


ビル上空………

――――ピクッ
「どうしたんだパルキア?」
「いえ………なんでもありません」
(まさかここまで石版の力を引き出すとは………)

バンギラスは壁に叩きつけられ、初めて片膝を付いた。

「すごいな、何処でそんな力を手に入れたんだい?」
「アンタには関係ないよ」
「その態度、まったく変わってないね…」
「……………」


「……あれでは長くは耐えられんぞ」
ボーマンダは先程から黙りこくっているミロカロスに、鎌をかけるように話す。
「何のことでしょう?」
眉一つ動かさず、冷静に返すミロカロス。
だが、ボーマンダは、創造神アルセウスに時の神ディアルガとして創り出されてから、何千、何億――
数えたら気が遠くなるような時間を、共に創り出された空間の神パルキアと過ごしてきた。何かを偽っているときのパルキア――ミロカロスの癖は、とうの昔に見抜いている。
ミロカロスの尾の先が、時計回りで二回くるりと宙に円を描いたのを、ボーマンダは見逃さなかった。
「とぼけるな。石板を持たせたあの猫の事だ」

しばらく沈黙した後、ミロカロスは小さなため息をもらす。
「嫌ですねえ。気付いていましたか、ディアルガ」
「当然だ。」
「あの猫はやるべきことは既に果たしました。どの道、主が復活なされた後、何らかの処置をとらねばなりません。あのまま無理な力を使わせ続け、勝手に自滅してもらえれば、我らの手間が省けるではないですか。」
冷徹にミロカロスは言い放つ。
ボーマンダはもう何も言わなかった。ミロカロスの性格も、ボーマンダはとうの昔に分かっている。
「ただ……あのお人好しそうな魂が乗り移った鼠が傍にいます。早々うまく猫を自滅させてはくれないでしょうね。」
ミロカロスは「ああ、嫌ですわ」と、わざとらしく大きなため息をつく。そのを様子を見て、ボーマンダはフッ、と薄く笑みを浮かべた。
ボーマンダは分かっていた。氷のように冷たく、冷酷だったミロカロスの心が、ピカチュウ達と接するようになってから少しずつ変わり始めていることも――

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